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高校野球「打高投低」は変わるのか?《来春から導入決定》“飛ばないバット”がもたらすもの…中学生の大会では「無得点チームが去年の倍に」
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2023/12/19 06:05
今年8月のジャイアンツカップで優勝した世田谷西リトルシニアも強打のチームだが、大会で本塁打は出ず
では、ジャイアンツカップのように試験導入ではなく、来年から全国一律ですべての加盟校(硬式)で必須の要件となる高校野球では、どのような変化が予想されているのか。
そもそもバットの反発係数を低くする、飛ばないようにするということはどういうことなのか。野球のトレーニングやコーチング、動作解析などの研究を行う筑波大の川村卓氏(准教授/硬式野球部監督)に聞いた。
「金属バットは中が空洞になっています。そのため“トランポリン効果”と言って、へこんだ金属が戻ろうとする復元力でボールが弾き返されることで飛ぶのですが、薄い金属で覆う方が反発して打球が飛ぶので、今回の規制はその覆う金属を厚くするということです」
当然、金属を厚くするからには重くなる。それを防ぐには、バットの直径を細くして軽くすることが必要となる。ただ折れてしまっては元も子もない。細くなる部分は「投球が当たらないところ」になる。そのため従来の金属バットよりも根元と先端部分(ヘッド)が細くなっているのが低反発バットの特徴だ。
打球を飛ばすためにはヘッドスピードが必要となるが、ヘッド部分が細くなっていて重心が従来よりも手元に近づいているため遠心力がかかりにくい。ヘッドを走らせるようにしてスピードを出すことはやりにくくなる。
“飛ばないバット”で「体格の差がより顕著に」
結果として「体格の差がより顕著になると思います」と川村氏は分析する。
「基本的にスイングスピードを出すためには、遠心力が大きければ大きい方が良い。時計の針は芯がしっかりしていないと勝手に動いてしまいますよね。スイングも同じで体の軸がブレてしまっては力が伝わらない。ブレないためには体は重い方が良いということになります」
加えて、もちろん技術も必要だ。
「球速や変化球の精度など投手のレベルも上がってきているので、コンパクトに振りながらもスイングスピードを上げられる打ち方にしなくてはいけません。イン・サイド・アウトといって、バットがグリップから先に出て、ヘッドが後から出て、それが体から離れずに出ていくというものです。技術もより求められてくるので、指導者のアップデートも求められることになるでしょう」