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「ファイターとしての朝倉未来には乗れる。だが…」重要なのは強さではなくカネと知名度? モラルを失った格闘技界を覆う“破滅の予兆”
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/12/05 17:07
賛否の声を自らの“栄養源”として格闘技界の中心人物へと成り上がった朝倉未来。YA-MAN戦での衝撃的なKO負けを受けて「休養」を宣言した
ただ、その一方で国内では知名度のある者、お金を儲けている者がもてはやされる傾向がある。朝倉がプロデュースするBreakingDownなど、その最たる例だろう。そもそもこの格闘エンタメにはスタート時から「格闘技か否か」という論議がついて回るが、その結論が出ないうちに、もっといえばその論議すらエネルギーにして、どんどん巨大化していっているように思われる。
格闘技界を取り巻く「経済原則」とは
『FIGHT CLUB』の前日計量では、YA-MANが1分以内のKOに1000万円の勝利ボーナスを要求したことが話題となった。しかし副将戦で山口裕人を1ラウンドKOで下した朝倉未来軍団の西谷大成は、RIZIN出場時の試合用トランクスのスポンサーフィーだけで4桁、つまり1000万円以上の収入があったと明かしている。
これは格闘技界にとって第2次ファイトマネー革命といってもいい。ちなみに第1次は、1993年4月の第1回『K-1 GRAND PRIX』だ。優勝賞金10万米ドル(当時のレートで約1100万円)を用意したことで、瞬く間に「K-1で活躍すれば儲かる」という話が伝わった。ワンマッチのファイトマネーの相場が日本円にして数十万円だったマーケットに、ケタ違いの賞金を提供するようになったのだから当然だろう。
世界チャンピオンになれなくても、1000万円プレイヤーにはなれるかもしれない――ファイトマネーに格差が生じると、おのずと高く払ってもらえる方に選手はなびく。その経済原則は90年代にK-1が古いシステムのままだったキックボクシングを呑み込んだ歴史が証明している。
ファイトマネーだけではない。試合の盛り上げ方も大きく違う。『FIGHT CLUB』において、朝倉軍団はYA-MAN軍団との“前哨戦”をことごとく制した。11月4日に行なわれた記者会見で朝倉が後ろを振り向きながら木村“ケルベロス”颯太に「お前、誰?」と言い放ち、その場を凍りつかせたシーンはそのハイライトだった。このやりとりでフリーズ状態になってしまったケルベロスはSNSで“チワワ”扱いされるという屈辱を受けたが、その代償として計り知れないほどの知名度を得た。そのことに当人は何を感じただろうか。
朝倉軍団は場の空気を読むプロでもあった。決戦前日の後楽園ホール『RISE173』で行なわれた計量では、どうやって朝倉軍団に対応したらいいか悩んでいた感のある観客に対して、ケルベロスと対戦する白川陸斗はマイクを握るや「お邪魔しています」と頭を垂れた。