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「ファイターとしての朝倉未来には乗れる。だが…」重要なのは強さではなくカネと知名度? モラルを失った格闘技界を覆う“破滅の予兆”
posted2023/12/05 17:07
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
RIZIN FF Susumu Nagao
朝倉未来はふたりいる。
ひとりはファイターとしての、もうひとりは実業家やYouTuberとしての朝倉だ。
ファイターとしての朝倉未来には「乗れる」が…
「何をいまさら、当たり前のことを」という突っ込みもあるだろう。誰もがそう認識していることはわかっている。しかしながら、ここにきてふたりの朝倉は完全に別々の方向に進もうとしている。
11月19日、YA-MANに衝撃的なKO負けを喫した直後、朝倉は「何でこんな自分に沢山のファンがいるかもわからない状態ですが、長い間本当に格闘技にはお世話になりました」と気落ちした文面で引退を表明し、大きなニュースとなった。
2日後の21日、朝倉は自身のYouTubeチャンネルで引退を撤回。涙ながらに再起を誓い、「格闘家としての精神部分でのストレスみたいな、ダメージの蓄積とかがあって、しっかり休んだ方がいいと言われている。(中略)格闘技を少し休ませてほしい」と休養を宣言した。
朝倉の涙に心を打たれた人は多い。今年になってから辛酸を舐めさせられたヴガール・ケラモフやYA-MANへのリベンジ、因縁の平本蓮との対決など心躍るマッチメークはあまたある。ファイターとしての朝倉には「乗れる」。そう思う一方で、筆者の中にはモヤモヤが残った。
本来ならば、「朝倉有利」という下馬評を覆しKO勝ちを収めたYA-MANがもっと評価されるべきだと思ったからだ。もちろんYA-MANの勝利を賞賛する声もあるが、それよりも「これから朝倉未来はどうなるのか」という興味の方が圧倒的に多い。
知名度の差と指摘されたらそれまでだが、そこに現在の格闘技界が抱えている問題があるのではないか。ハッキリ言おう。かつて格闘技では、勝利に結びつく強さこそが最大の価値であり、最も求められているものだった。
例えばK-1とともに2000年代前半の格闘技ブームを牽引したPRIDEでは、エメリヤーエンコ・ヒョードル、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、ミルコ・クロコップの3強が最強幻想を膨らませた。世界最高峰のパフォーマンスを間近で見られたからこそ、日本のファンは熱狂したのだ。“ホンモノの強さ”の前に国境などなかった。
では、いまはどうか。もちろん強さを追求する流れは永遠のテーマとして存在する。だからこそUFCの平良達郎やムエタイの吉成名高のように、海外の選手層の厚いプロモーションに挑戦する日本人ファイターは昔もいまもリスペクトされる。