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「バウアー32歳が中4日フル回転」背景抜きに“見習え”は危険では…山本由伸3年連続、東克樹が奮投も「沢村賞」基準が“昭和のまま” 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byJIJI PRESS/Nanae Suzuki

posted2023/11/02 11:02

「バウアー32歳が中4日フル回転」背景抜きに“見習え”は危険では…山本由伸3年連続、東克樹が奮投も「沢村賞」基準が“昭和のまま”<Number Web> photograph by JIJI PRESS/Nanae Suzuki

バウアーと山本由伸。サイ・ヤング賞経験者と3年連続沢村賞右腕の成績を中心に、先発投手の意義について考えてみると……

「これぞいわゆるメジャーリーグのトップにいるピッチャーだなというのを見せていただいた。サイ・ヤング賞をとったピッチャーらしく、中4日と中5日とどんどん投げた。こういった形は本来日本でもやりたいなあと思った」

 32歳のバウアーは今季後半から中4日でマウンドに上がった。8月15日からは20日、25日、30日と中4日のローテを維持した。その上で8月20日の阪神戦は120球、25日の中日戦は126球を投げている。

 それに比べれば「中6日100球」で降板する日本の先発投手はひ弱ではないか――との注文だろう。

 もしバウアーが中4日でローテを維持し、100球を超えても投げることができれば、30試合以上先発できるし、イニング数も200を超え、完投数も増えるに違いない。より「沢村賞」の基準に近い成績が期待できる、ではあるが……。

そもそもバウアーは「データ革命」を推進した投手である

 これはかなり問題がある。

 誰もがバウアーの真似をして中4日で投げられるわけではない。

 そもそもトレバー・バウアーは単に「データを活用している投手」ではなく、MLBの「データ革命」を推進した投手だ。

 今やアメリカだけでなく、世界の野球界から注目されるトレーニングジム「ドライブライン」に、エッジャートロニック社製のハイスピードカメラを持ち込んで、高精度の動作解析を始めたのはバウアーだ。

 また多くの投手が実行しているJバンド、遠投、プルダウンを組み合わせたトレーニングを編み出したのもバウアーである。

「アメリカン・ベースボール革命」(化学同人)によると2018年オフから19年にかけて、バウアーは「ドライブライン」で8802球を投げて、投球をチェックし、球速を上げ、球種に磨きをかけている。

 彼は自分で編み出したトレーニング法によって「自分がどの間隔で、どれだけの球数を投げることができるか」を把握しているのだ。しかしそれはトレバー・バウアーという一個人の話であって、誰でも同様のパフォーマンスができるわけではない。

「投げなさすぎ」という指摘もあるのは確か

 アスリートには能力、体力の個人差がある。それを十分に把握して、自身の限界までパフォーマンスを高めることが大事である。「あいつにできて、お前にできないはずがない」的な考え方は、非常に危険だ。事実、そういう形で無理をして、多くの投手がリタイアしている。

 確かにNPBの先発投手は「投げなさすぎ」との指摘がある。

【次ページ】 「昭和の野球」が戻ってくるわけではない

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