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「真犯人は誰? ウェイトレス説か、それとも…」ラグビーW杯決勝直前“まさかの”集団食中毒事件…あの28年前“伝説の決勝”以来の顔合わせに
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2023/10/28 17:01
1995年のラグビーW杯決勝。ニュージーランドに勝利した後、スタジアムで初優勝を祝うネルソン・マンデラ大統領
1995年のこの試合は、すでに歴史の一部として刻まれているが、南アフリカはアパルトヘイト政策のために国際スポーツの舞台から締め出され、第3回の地元開催で初出場、初優勝し、国際社会への復帰に大きな意味を持った。
この決勝戦に出場していたオールブラックスの一員に、ジェイミー・ジョセフがいる。そう、日本代表のヘッドコーチを務めたジェイミーだ。彼にこの時のことを質問したことがある。試合を前に集団食中毒が発生し、ニュージーランドは万全の態勢で戦うことができなかったからだ。ジェイミーは当時のことを淡々と語ってくれた。
「みんなで映画を見ていたんだ。ところが、映画の途中で、ひとり、またひとりと仲間が席を立って行った。『どうしたんだろう?』と思っていたら、みんな体調を崩し始めていてね。私自身はなんともなかったんだが……」
この事件の「真犯人」についてはいまだに新説が出るほどで、疑惑を持たれた人間にはスージーと呼ばれるウェイトレス、賭けに絡んでブックメーカーが裏で糸を引いていたのではないかといった説が根強い。
1995年のエピソードだけでなく、様々な歴史的な事実が、この対決の意味を重層的にしている。
エディーさんが語る「南ア独自のラグビー」
両国の対戦がダイナミックになるのは、それぞれのラグビースタイルが国の色合いを表現しているからに他ならない。
2015年のW杯決勝でニュージーランドを連覇に導いた司令塔、ダン・カーターは自国のラグビーについてこう話してくれたことがある。
「オールブラックスのラグビーは、ニュージーランドという国の象徴なんだ。民族の融合、アタックではフリースピリットを表現する。そして粘り強いディフェンスは地道な労働を尊ぶ価値観の表われなんだ」
つまり、オールブラックスにはニュージーランドの価値観が凝縮されているのだ。
一方の南アフリカはどうか。オーストラリア、日本、そしてイングランドを率いて何度も南アフリカと戦ったエディー・ジョーンズはこう話す。