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「一つだけお願い…」ロッテ・吉井理人監督はそのとき何を切り出した? 延長10回3点差から大逆転…“劇的突破”を叶えた指揮官の「言葉術」
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byChiba Lotte Marines
posted2023/10/18 12:20
大逆転劇でのCSファイナル進出。選手たちは歓喜の輪を作った
こうしてこれまで発せられた指揮官の言葉のタイミングは的確だったと言える。振り返ってみると、選手を集めて何かを伝えた試合はほぼ勝っている。10月10日。今季143試合目。勝てば2位、負ければ4位という仙台でのイーグルス戦もそうだ。初めて練習直後に選手を集めた。しかも事前のアナウンスはなく練習が終わったタイミングを見計らって、「ちょっと、みんな集まって」と自ら手招きをして声を掛けた。
「みんな、緊張してると思う。そもそも緊張は戦うか、逃げるか。どちらかの準備をするための人間が持っている機能。だから緊張するのは当たり前」
オリックス優勝に「あれが勝者の音」
これは吉井監督が筑波大学大学院に通っていた時にスポーツ心理学の講義で一番最初に学び、自身も共鳴したことだった。そして「この緊張の中でなにが出来るか。もう一回、考えて今日は自分たちが出来る事をするしかない」と続けた。まずは誰だってこの試合では緊張することを知ってもらいたかった。その中でどのような能力を発揮できると考えているか。試合前に整理してもらい、緊張下で力を発揮してもらおうと考えた。
最後はこんな言葉で締めた。
「大事な試合ほどパーフェクトではなくてグッドでいい」
投手コーチ時代からよく選手たちの余計な肩の力を抜くために伝え続けている言葉だ。
バファローズのリーグ優勝を目の前で見ることになった京セラドームでの9月20日のゲームでは試合後、三塁側ベンチ後ろにある食堂に選手たちを集めた。外からはバファローズファンによる地鳴りのような大歓声が漏れ聞こえた。あえて沈黙を置き、外の音を強調してから切り出した。
「おつかれさん。これで優勝が決まった。見てた? あれが我々の経験したことのない勝者の音。そしてこれが敗者の音や。よく覚えておいてくれよ」