甲子園の風BACK NUMBER
高校野球データ革命の“超進化”がスゴい! 慶応も仙台育英も来た“最新分析施設”キーマンいわく「目的なく練習するのではなく…」
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/10/16 17:01
夏の甲子園決勝で対決した慶応と仙台育英。データ革命は高校野球の世界でも進んでいるようだ
米国では主流になっているように、チームの得点力を高めるには長打に価値があり、長打の確率を上げるには打球の速度と角度が重要になる。理想の打球角度にならない要因はスイングの軌道にあるのか、バットで投球を捉えるポイントにあるのかなど、改善点が明確になれば一直線でゴールに近づける。
データ活用にメリットがあるのは選手だけではない。森本氏はデータ解析が指導者の勉強の場にもなっていると話す。
SNSをはじめ、今の高校生は様々な情報を入手できる。選手の知識がどんどん増えていく中で、指導者の頭の中がアップデートされなければ信頼関係を築くのは難しい。森本氏はデータを活用した指導の重要性を、こう話す。
「目的なく練習やトレーニングをこなすのではなく、『140キロを投げるために必要な動きを獲得する』という明確な狙いがあればモチベーションにつながるはずです」
様々な情報を取捨選択することが問われる
練習の目的を明確にし、効果があるのかデータで測定すれば、その練習が選手に合っているのかどうかを判断できる。指導者は漠然と努力する選手を正しい方向へ導ける。データの移り変わりは、選手の成長を見極める重要なヒントとなる。
森本氏はチームから依頼を受けた際、指導者とコミュニケーションを図り、選手のデータを共有したり、数字が持つ意味を説明したりする。選手がデータの必要性を感じて向上心を抱いていても指導者に否定されれば、両者にとって不幸な結末になりかねないからだ。
個のスキルアップを重視し、そのためにデータを活用する傾向が強くなっている高校野球。その動きは今後加速していくと森本氏は断言する。
「様々な情報を取捨選択して、自分に合った方法や練習法を見つけられるかどうかが、パフォーマンスの差に表れると感じています。自分の現状をデータで客観視し、必要な練習やトレーニングを模索して懸命に取り組むことで、文科省が提言する“新しい時代と社会を生き抜く力” が自然と身に付いていくと思います」
指導者から言われたメニューを消化するだけでは、成長スピードは鈍くなる。仮に練習時間に制限があっても、目標までの最短距離を進めば練習量で劣る相手に勝つチャンスがある。データには、その可能性が秘められている。