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将棋PRESSBACK NUMBER
「羽生(善治)先生に“小高さん中飛車党だもんね”と言われて…」21歳女流棋士が語る“将棋での喜び”「西山朋佳さんは昔も今も憧れですが」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/10/07 06:02
羽生善治九段や西山朋佳女流三冠などから、小高佐季子女流初段は感銘を受ける日々だそうだ
初手合いは2021年、女流王位戦でのこと。さらに22年にも女流名人戦で相まみえた。対局前日には「なかなか緊張して眠れなかった」そうだが、それは気持ちの高ぶりというよりも、客観的に見た際の自身の棋力にあったのだという。
「初手合いの時はまだちょっと当たるには早いのでは、と感じていたんです。現時点での自分の実力で大事な時間を費やさせてしまうというか、大事な時間を奪ってしまうのは申し訳ないな……という感覚だったんです。対局後、お茶する機会があったのですが、西山さんも〈まさかこんなにすぐ当たるとは思ってもみなかったよ〉といった感じでおっしゃっていたことが記憶に残っていますね」
〈憧れだから負けても仕方ない〉は、やめよう
対局は西山女流三冠の勝利で終わった。そして翌年にも対局したものの、結果は初手合いに続いての敗戦となった。小高さんはこの2局を通じて、気づいたことがあったという。
「2度目の対局の時も、私はまだまだ弱かったですし、憧れの方が強くなってしまいました。だからこそ、いつか次に当たった時には〈強いから、憧れの存在だから負けても仕方ない〉という考え方はやめようと思っているんです。私の中での持論なのですが、そういった思いを持っていると、盤面で手が伸びなくなる、つまり自分の実力を出せないような気がしているんです。対局する際は誰でも一緒、といつも考えて臨むようにしています」
憧れるのを、やめましょう――2023年WBC決勝戦、アメリカ戦を前にした大谷翔平が口にした、誰もが知るところになった名言である。小高さんは公式戦という舞台を通じて、その言葉の意味を肌で感じ取ったのだろう。
武富さんとの初対面、同い年だと思ったら…(笑)。
憧れの存在とともに、普段からの交流が多いのも棋士、女流棋士ならではだ。西山女流三冠が憧れなら、長年にわたっての付き合いとなっているのが武富礼衣女流初段である。2人の出会いは小高さんが小学校6年生になろうとする頃の研修会だったそうだが……仲良くなったきっかけについて聞くと、少し照れ笑いを浮かべながら語る。
「武富さんが関東研修会に入ってきた当日は、ちょうど女の子の大会がかぶっていて、女子が私しかいなかったんです。だから武富さんが〈女の子がいてよかった〉と思ったのか、進んで話しかけて来てくれたんです」
すると……ちょっとした“勘違い”が生まれる。