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「本気だった?」誰よりもサッカーを愛した男・松田直樹…34歳で突然逝った希代のDFは何を遺したのか「マツさんの死をきっかけに…」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byJ.LEAGUE
posted2023/09/27 17:01
ともにプロ3年目、'97年の横浜ダービーでマッチアップしたマリノスの松田(左)とフリューゲルスの吉田孝行
今春、小学5、6年生、中学生を対象に「山雅魂道場DFクラス」を開校。松田に勝るとも劣らない身振り手振りの熱い指導で子供たちに真剣にぶつかっている。
「一番、口にしているのが、相手がボールを持っているんだったら、本気で獲りに行こうよって。そうじゃなかったら1回止めて“本気だった?”と問い掛けます。
そもそも本気じゃなかったら相手からすれば怖くない。マツさんは練習でボール回しをしているときに“早くオレのボールを奪いにこいよ”って、よくやっていました。こっちからすれば、はがされるから行きたくないんだよって思っているのに“来ないならお前の良さなんてない”って挑発されて結局行っちゃう。でもそうやって本気でぶつかり合うのが、サッカーの一番楽しいところでもあると思うんです」
うまくなりたい、負けたくないと本気で思っている子に、こちらも本気になって接する。自分もそうやって力を引き出されてきたんだとあらためて感じ取れた。
「サポーターの声は天国にいるマツさんの声」
ファン、サポーターとのコミュニケーションに対しても同様である。
「あのときマツさんがこのクラブにやってきたことで、“俺らJリーガーになるんだ”と選手たちの本気度が増した。ただあの人は選手やクラブだけじゃなく、ファン、サポーターも本気にさせたんです。本気になって応援してくれて、本気になって俺たちを支えてくれた。だから選手たちも、それに応えようとしました。そこまで(影響を)与える人って、僕はほかに知らない。ただ一番本気だったのがマツさんでした。山雅を全国区にするって、マジで言ってんなと思ったから、僕も受け継いでそうしたいなって思ったんです」
飯田はファン、サポーターの声を大切にしてきた。ホームのサンプロアルウィンで試合に負けると、飯田はスタンドにとどまって選手たちの表情を見るとともに、サポーターからどんな言葉が投げかけられているのか確かめることにしている。
「僕も現役時代、しっかり戦っていなかったときに1回だけブーイングされたことがあります。サポーターはやっぱりきちんと見てくれている。本気で応援してくれているサポーターの声は天国にいるマツさんの声だと思って、僕は聞いています」
「マツさんの名前と背番号が入ったユニフォームを目にすると…」
命日近くの試合では選手たちが松田の名前と背番号3を刻んだユニフォームを着てアップすることが恒例となっている。
「マツさんのことを思い出してしまうのは常日頃のこと。ただマツさんの名前と背番号が入ったユニフォームを目にすると、やっぱり身が引き締まる思いがします」
墓前での報告には続きがある。悩みだけで終わりにしないヤツだってことは誰よりも松田が分かっている。