酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「阪神のARE=アレ」と「おーん、そらそうよ」寛大な関西人・岡田彰布監督は「審判への抗議」も公益のため…一流の野球人なワケ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/09/15 17:22
11連勝フィニッシュで18年ぶりのセ・リーグ制覇。阪神タイガースの熱狂をもたらしたのは岡田監督の采配だった
「ARE」は、
「監督、今年の目標は」と聞かれて
「そら、あれよ、あれだけよ、おーん」
と岡田が答えたのを記者が拾って記事にして、それが結果的に「A.R.E.」を今季スローガンになってしまったということだろう。
「あれ」を記事にした記者も、それをキャンペーンにした阪神の担当者も、大阪弁で言う「いちびり(調子乗り)」だと思うが、春先のこうした「いちびり」が、阪神の勢いを加速させたという側面はあろう。
岡田監督は“昔の旦那衆”のような鷹揚さがある
《アレ行き特急列車、ご乗車の方はお急ぎください。》
阪神甲子園駅のホームにはこんな看板まで掲示された。阪神電鉄も「いちびり」である。
筆者が本当に感心するのは、こうした報道に対して、岡田彰布がただの一度も文句を言わなかったことだ。
インタビューをして文字起こしをして記事にすると、取材対象から「俺、こんな荒っぽいこと言ったかなあ? もうちょっとまともな言葉にしてくれよ」と言われることがしばしばある。多くの人は、話したことをそのまま記事にするのではなく「少しは修正してよさげにしてくれよ」と思うのだが――岡田はどんな言葉が記事になっても鷹揚に、寛大に受け止めているのだ。
下手をしたら、言ってもいないのに「おーん」を付け足されている可能性もあるだろうが、そういうのは気にしない。
岡田彰布には、昔の大阪によくいた「旦那衆」の鷹揚さがある。寛大な心で物事を受け止める大きさがある。昔からそうだったのか、長い野球生活で人間ができたのかはわからないが、厳しいペナントレースを戦い、自身も生存競争に明け暮れるプロ野球選手にとって、小さなことでいちいち眉間にしわを立てず、鷹揚に構えてくれる旦那衆のような岡田監督は、安心できる存在なのかもしれない。
審判へのクレームのつけ方にも感心した
筆者がもう一つ感心したのは、岡田彰布監督の審判へのクレームの付け方だ。
8月18日のDeNA-阪神戦の9回、阪神代走・熊谷が二盗を試み、ワンバウンド送球を捕ったDeNA遊撃・京田の左足が、熊谷のスライディングをブロックするような形になった。当初はセーフ判定だったが、DeNAのリクエストでリプレー検証後にアウトになった。岡田監督は走塁妨害ではないかと抗議したが、故意ではないとして判定は覆らなかった。