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「非坊主」で話題、慶応・森林貴彦監督が指摘する“高校野球の教育的問題”「『バレなければいい』という大人にしていいのか」
text by
森林貴彦Takahiko Moribayashi
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/18 17:02
甲子園ベスト8に駒を進め、19日には沖縄尚学と対戦する慶應義塾。幼稚舎の教員も務める森林貴彦監督は、高校野球における教育上のある問題を指摘する
サイン盗みは高校野球において禁止されていますが、罰則規定はありません。そのため審判が紛らわしい行為を発見したとしても、注意を受けるだけで終わりです。当たり前の話ですが、罰則を受けないからといって、サイン盗みをしてもかまわないということではありません。これまでバレていなかったり、いまでもバレないままやろうとしているチームはあるかもしれませんが、高校生のときにそんなことをやってきたという思いを持ったまま、大人にしてもいいのでしょうか。卑怯な手を使って勝つ確率を高めようとするのは、その後の人生の考え方に大きな影響を及ぼすはずです。「結局バレなければいい」「うまくやったもの勝ち」という人間を育てることになりかねません。こうした経験を高校生にさせるのは罪深いことだと思います。
「問題」について自分の頭で考えさせる
サイン盗みに限らず、こうした問題が起こったタイミングは、指導者の出番であると考えます。チーム内で、指導者と選手が話し合う機会にしなければいけません。スポーツマンシップは確かに素晴らしい概念、考え方ですが、抽象的な面も強く、言葉だけでは選手の中に入りづらいという側面があります。だからこそ、サイン盗みのような具体例は、概念や抽象的な考え方を自分自身に落とし込むために、非常に効果を発揮します。
「サイン盗みについて、どう思う?」
「今日の練習試合で相手がこういうことをしてきたけど、それ、どう思う?」
どんな問題にせよ、このように選手に「どう思う?」と投げかけ、自分の頭で考えさせます。そのテーマについて指導者と選手がきちんと話し合う時間を作ることが大事なのです。
皆で議論することが大事
例えば球数制限をテーマにした際は、「賛成です」という意見が意外なほど多くの選手から出ました。私は「投手であれば最後まで投げたい」という意見が多数を占めると思っていたので、意外な印象を受けたことをいまでも覚えています。もちろん、いろいろな意見があって当然で、それは世の中も同じです。皆が皆、同じ意見になることはまずありません。
その上で、ことあるごとに、こちらの考えや願望のようなものを伝えていく。そうした努力を指導者は続けていくべきです。一度言ったからといって身に付くものではありませんから、何度も繰り返しやっていくことが大切なのではないでしょうか。