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「非坊主」で話題、慶応・森林貴彦監督が指摘する“高校野球の教育的問題”「『バレなければいい』という大人にしていいのか」

posted2023/08/18 17:02

 
「非坊主」で話題、慶応・森林貴彦監督が指摘する“高校野球の教育的問題”「『バレなければいい』という大人にしていいのか」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

甲子園ベスト8に駒を進め、19日には沖縄尚学と対戦する慶應義塾。幼稚舎の教員も務める森林貴彦監督は、高校野球における教育上のある問題を指摘する

text by

森林貴彦

森林貴彦Takahiko Moribayashi

PROFILE

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Nanae Suzuki

 3回戦で広陵を破り、甲子園ベスト8に駒を進めた慶應義塾高校。「髪型自由」「長時間練習なし」という従来の高校野球とは一線を画する方針でチームを率いるのが森林貴彦監督だ。その考えを著書『Thinking Baseball ――慶應義塾高校が目指す"野球を通じて引き出す価値"』(東洋館出版社、2020年10月発行)から抜粋して紹介する(全3回の1回目/続きは#2へ)

スポーツマンシップとは何か

 高校野球において、選手のみならず指導者も含めて、一番の土台に据えなければならないのが、“スポーツマンシップ”です。

 それでは、スポーツマンシップの意味とは一体、何でしょうか。

 多くの人が言葉としては聞いたことがあり、どことなく分かっていたとしても、厳密に答えられる人はそう多くはないと思います。

 スポーツマンシップとは尊重、勇気、覚悟の3つの要素で構成されています。“尊重”とは仲間、対戦相手、審判、ルールを尊重すること。“勇気”とは失敗を恐れずに挑戦すること。“覚悟”とは最後まで全力を尽くしてどんな結果も受け入れること。これらを複合してスポーツマンシップと呼びます。

 非常に素晴らしい考え方であり、これは私の中学の同級生で、日本スポーツマンシップ協会の代表理事を務める中村聡宏(あきひろ)氏から教わりました。彼は大学の教員として日々スポーツマンシップについて研究しており、彼と深く話し合っていく中で、この本来の意味のスポーツマンシップを心の土台に据えるのが、チーム作りの基盤になると考えるようになりました。

スポーツマンシップを身につけるのが使命

 またスポーツマンシップとは、スポーツをしている人だけでなく、現代を生きる人々の人間力の土台というようなイメージでも捉えています。これは中村氏から教わったことですが、たとえスポーツをしていなくてもスポーツマンは褒め言葉になるそうで、「彼はスポーツマンだ」を英語に訳すと、「いいやつだ」という意味をもつようです。つまりスポーツに限らず、人間として素晴らしいことの表現としてスポーツマンと呼ぶということです。そして、そういう人が身に付けている心構えがスポーツマンシップにあたります。この中村氏のスポーツマンシップ論は、『スポーツマンシップバイブル』という書籍にもまとめられています。

 こうした真のスポーツマンシップを自分のものにしていくことが、高校の部活動の一つの目標であり、選手をそういう人間に育てていくことが指導者の使命だと考えています。

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