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大阪桐蔭・西谷浩一監督は千葉まで飛行機で視察…帝京・前田三夫と日大三・小倉全由、元監督同士が語り合う「大阪桐蔭」「西高東低」「教育論」
text by
前田三夫+小倉全由Mitsuo Maeda & Masayoshi Ogura
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/21 06:02
今夏の105回大会には登場しなかったものの、甲子園の常連校であり、常勝校である大阪桐蔭。率いるのは西谷浩一監督
前田 昔、とりわけ今から30~40年前の帝京は、下町出身の中学生を多く獲っていた。江戸川区や足立区の子はみんなハングリー精神があったんだ。
私は選手を獲得するにあたって、その子がどんな家庭環境で育ってきたかを知るために、自宅に行って話をしていたんだけれども、六畳一間の部屋で家族4人で生活している子もいた。こういう子は文字通りハングリー精神の塊でね。野球に関しても一生懸命取り組む姿に私自身も大いに感銘を受けたんだ。
小倉 ハングリーな気持ちを持っていることは大切ですね。自分も関東一の監督時代は、前田先生と同じように、江戸川区や足立区、墨田区あたりの中学生に注目するようにしていました。
前田 もちろん、今ではずいぶん状況が変わってきているから、ハングリー精神というのが昔に比べて薄らいできているように感じる。「野球を頑張って、ひと旗揚げてやる」という子は減ってきていて、そういうことが勝負度胸の面でどん欲さに欠けている、と私は分析しているんです。
そこで関西の血を入れて、チームを活性化させることで、今までとは違った化学反応をさせるということを試みているというのが、今の帝京ではあるんだけどね。
学校に任せすぎ問題
小倉 チームというのは生きものですからね。「こうすれば勝てる」という法則はないだけに、時代が進んで行くにつれて適宜変えていくというのも、チームを強化するうえでは欠かせない手法だと思います。
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前田 私はもともと、自宅から通学できる生徒を獲って強化してきた。親御さんが仕事で頑張る姿、わが子を応援してくれる姿勢などを日々の生活で見ながら、「自分はこれだけ親に助けられているんだ」と感謝の気持ちを持って野球に打ち込むことが一番だと考えていたからなんです。
けれども最近は違う。しつけから何から、すべて学校に任せてしまうような親御さんもいる。本来であれば、「それは家庭でやるべきことでしょう」ということまで、学校に預けてしまうところがあるので、子どもたちも集団生活のなかでのルールを知らない、マナーを身につけていないなど、預かった側からすると困ってしまう事態が発生している。
小倉 学校側で教えられることには限界があります。集団生活におけるマナーやルールについては、自分たちで教えることはできますが、今は食事のマナーについても、家庭で教えていないこともありますからね。「えっ、ここまで教えなきゃいけないの?」ということは、私が監督時代の晩年にもしばしばありました。