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大阪桐蔭・西谷浩一監督は千葉まで飛行機で視察…帝京・前田三夫と日大三・小倉全由、元監督同士が語り合う「大阪桐蔭」「西高東低」「教育論」

posted2023/08/21 06:02

 
大阪桐蔭・西谷浩一監督は千葉まで飛行機で視察…帝京・前田三夫と日大三・小倉全由、元監督同士が語り合う「大阪桐蔭」「西高東低」「教育論」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

今夏の105回大会には登場しなかったものの、甲子園の常連校であり、常勝校である大阪桐蔭。率いるのは西谷浩一監督

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前田三夫+小倉全由

前田三夫+小倉全由Mitsuo Maeda & Masayoshi Ogura

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Nanae Suzuki

 近年塗り替わりつつあるが、これまで「東より西が強い」と長年言われてきた甲子園の勢力図。東京の名将はその事実をどう受け止めているのか。大阪桐蔭、関西の選手、スカウト……「東西」をテーマに教育論を語り合う2人の対談を『高校野球監督論』(双葉社)より抜粋してお届けする(全3回の3回目/#1#2からの続き)

前田、小倉は西谷浩一をどう見る?

小倉 今の高校野球は大阪桐蔭が頭一つ抜けていると言われていますが、その背景には西谷(浩一)監督の精力的なスカウティング活動が見逃せないですよね。

前田 たしかに大阪桐蔭は強い。西谷監督のもとには中学時代に硬式野球で全国制覇をした選手、全国でも名の知れた選手が多数集まるけれども、彼のフットワークのよさは素晴らしいものがあるね。

小倉 自分が当時部長だった三木(有造。現・日大三監督)と千葉の有望選手を見に、千葉県内のとあるグラウンドに足を運んだんです。するとそこに西谷監督の姿があった。自分は「どうしてこんなところにいるんだ?」と驚いて、本人に直接話を聞いてみると、「関西空港から成田空港に飛行機で来た」と言うんです。こう言ったら失礼にあたるかもしれませんが、千葉の田舎までわざわざ選手の情報を聞きつけて、実際に来てしまう彼のフットワークのよさには舌を巻きました。

前田 そうしていい選手を獲得して育てていく。その手法もありと言えばありだろう。ただ、その裏で、大阪桐蔭に入って試合に出られずに3年間、終わった選手もいる。「この選手は将来プロに行くだろうな」という人材がいたとしても、3年生のときにはベンチにも入っていないということもある。そうしたケースが実際にあるのはもったいないよね。

小倉 高校に入って伸びなかったのか、それとも埋もれてしまったのか。あるいは両方なのか――。考えられる原因はいくつもあるんでしょうが、大阪桐蔭では活躍できなかったという事実があるということは、間違いないと思うんです。

根本陸夫からの教え

前田 今は「いい選手はどこそこにいる」となれば、甲子園に何度も出場している常連校の関係者が足を運んで実際にその選手のプレーを見て、本当によければあとは奪い合いとなる。その選手が来たら甲子園に出られる見込みが高いからそうするんだろうけど、それだと「スカウティングがうまくいけば、あとは現場に任せればいい」となってしまう。これだと本当の意味で、「指導して伸ばす」ということにつながらないんじゃないかという懸念がある。

小倉 自分が関東一の監督になって間もない頃、根本(陸夫)さんからこんなことを言われたんです。
「有望な中学生に『ぜひうちに来てください』と言ったって、野球部として何も実績のない君のところに来るわけないじゃないか。ならば、バスケットボールやバレーボール、バドミントンなど、他の競技で優秀な成績を残した中学生を野球部に引っ張ってきて、育てていくというやり方だってあるんじゃないか」
 これって実は真理を突いているなと思ったんです。中学時代に野球をやっていて優秀な成績を残したからスカウトして、高校の野球部に入れるんじゃない。運動能力の高い中学生をスカウトして、高校で野球をやらせて潜在的に持っていた素質を開花させる。この方法もありなんですよね。

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