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「保護者のお茶当番はありません」日本一の少年野球クラブが“辞めやすいチーム作り”をするワケ「移籍するとサインが流出する可能性はあるが…」
text by
辻正人Masato Tsuji
photograph byKANZEN
posted2023/07/17 17:02
多賀少年野球クラブが目指す、これからの少年野球クラブの運営とは?
チームの作戦や選手同士で出し合うサインが流出するリスクもあります。若い頃は選手がチームを離れていくと「自分の指導が悪かった」と落ち込んで反省しました。ただ、子どもたちが野球を続けてくれるのであれば、チームはどこでもいいんです。移籍するということは、指導者として選手に野球の楽しさを伝える役割を果たせたと考えるようになりました。
うちのチームの選手たちも移籍した仲間の考え方を理解しているので、何のわだかまりもありません。試合会場で会えばワイワイ話をしたり、一緒にお昼ご飯を食べたりしています。今は別々のチームでも、多賀少年野球クラブで野球の楽しさを知った仲間なのは変わりありません。私も移籍した選手を見つけたら声をかけて、近況を聞いています。
部員を増やすには“辞めやすいチーム作り”が大事
部員を増やすには“辞めやすいチーム作り”が大事だと考えています。練習体験に来た保護者には「嫌になったら、いつでも辞められますよ」と伝えています。いつでも辞められると思うと、保護者が子どもをチームに入れるハードルが低くなります。結果的にチームに入る人が増えるわけです。「お願いなので、うちのチームに入ってください」と頭を下げられたら、何があってもチームを抜けられなさそうで、入団をためらってしまいます。いつでも辞められるチーム、移籍を希望する選手を快く送り出すチームが増えたらいいなと思っています。
少年野球の移籍制度に関しては、昨年ようやく全日本軟式野球連盟が改革に乗り出しましたが、悪しき習慣が長年残っていました。これまでは「基本的に特別な理由がない限り、年度内の移籍登録はできない」というルールがありました。つまり、指導者のやり方に耐えられないなどの理由で4月にチームを離れた選手は、その年度の3月まで1年近く、どこのチームにも所属できません。
さらに、新しいチームに移籍したとしても、在籍していたチームが移籍選手の登録を抹消しなければ二重登録となって、その選手は試合に出られません。実際、移籍する選手への嫌がらせや、これ以上選手を移籍させない“見せしめ”として登録を抹消しないチームもありました。子どもたちの選択肢は2つ。居心地が悪くてもチームに残って野球を続けるのか、野球を辞めるのか、苦渋の選択を迫られます。
移籍制度は野球人口減少の一因にもなっていた
多賀少年野球クラブにも、元々所属していたチームで嫌な思いをして移籍してきた選手がたくさんいます。まず、絶対に勘違いしてはいけないのは、子どもたちはチームの所有物ではないということです。