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「強くしてほしい…」レスリング藤波朱理(19歳)が“父親の前で号泣”した中学時代…122連勝“吉田沙保里超え”を叶えた「強制しない」指導法
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/20 11:00
レスリングの全日本選抜選手権で、吉田沙保里を抜く122連勝を飾った藤波朱理
父親が語る「(中学までは)そこそこやれる選手」だった
成績もさることながら、試合の内容も、抜きん出た存在であることをあらためて知らしめた。164cmの長身で長い手足を誇る。タックルをはじめとする攻撃力、容易に崩されない防御、巧みな駆け引きと、どの分野でも圧倒的な地力を備える。その力を存分に発揮し、順風満帆というほかない無敗街道を進んできた。そして今大会での圧倒的な強さとともに、以前の取材での数々の話も思い起こさせた。
今日の強さからすれば意外な言葉を語った人がいる。元レスリング選手で藤波を幼少期から指導していた父の俊一氏だ。高校のレスリング部などで長年指導にあたり現在は藤波が籍を置く日本体育大学のコーチである俊一氏は、中学生の頃までの藤波を「そこそこやれる選手」と捉えていたという。
言葉の真意は、国内の上位クラスにはなっても世界のトップクラスになるとは思っていなかったということである。実際、連勝が始まるまでは負けることも珍しくはなかった。だから優勝を逃す大会も少なくなかった。
では、どこで変貌を遂げたのか。
中学生の藤波が「強くしてほしい」と泣いた日
その前提として、俊一氏は、藤波の武器である「片足タックル」について「先天的、才能」だと言う。
「あのタックルに入るタイミングだけは教えきれない。教えられるものなら、みんな身につけられます。あれは生まれつきですね」
その上で才能が開花した転機をあげる。
「中学生になって勝てなくて、あるとき泣いて、『強くしてほしい』と言ってきました。それに対して、言ったとおりに練習する約束をかわしたのですが、そこから取り組み方が変わりました。特別な練習をしたというわけではなく、姿勢が変わりました。もう真面目そのもの、反復してきちんと練習を怠らずに続けられています」
藤波も同じ趣旨の話をしている。
「勝てなかった相手がいて、どうしても勝ちたい、どうしても勝とうと練習に取り組んでいました」
気持ちをあらためたこと、それ以降は一貫して真摯に練習に取り組んできたことが地力を培ってきた要因であるという。