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「80分ではなく4800秒と意識させた」スピアーズ田邉コーチの証言でわかった“12季ぶりラグビー新王者の誕生”が偶然ではない理由 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byNobuhiko Otomo

posted2023/06/05 17:01

「80分ではなく4800秒と意識させた」スピアーズ田邉コーチの証言でわかった“12季ぶりラグビー新王者の誕生”が偶然ではない理由<Number Web> photograph by Nobuhiko Otomo

日本代表に選出されたWTB木田晴斗(右)の起用を進言するなど、スピアーズの初優勝に貢献した田邉淳アシスタントコーチ

 田邉は三洋電機~パナソニックでプレー、日本代表のFBとしても活躍。ロビー・ディーンズHCがチームに着任した2014年度に現役を引退し、そのままワイルドナイツのBKコーチに就任した。

 2017年度からはサンウルブズと日本代表のコーチも務め、そこで一緒になったCTB立川理道からラブコールを受けたこともあって、2019年度からスピアーズのスタッフ入り。ロビー・ディーンズとフラン・ルディケという世界を知り、今回の決勝を戦った両指揮官に師事した男は、スピアーズが上昇曲線を描き、頂点を掴むまでの時間を見続けてきた。

「大きく変わったのはチーム全体のパススキルです。特にFWのパス能力は格段に上がりました」

 田邉の言葉は力強かった。確かに、以前のスピアーズはフェイズが重なると、どこかでFW選手のノックオンがあり攻撃は潰えていた。

「着任したとき、チームのスタッツを見たら、パス回数がトップリーグでもダントツに少なかったんです。特にFWはほぼゼロでした。これじゃ、ボールを動かせるわけがない。上には行けない」

毎日100回ボールに触る

 ボールを動かすラグビーを実現するため、ハンドリング技術を向上させる目的で田邉が導入した相言葉が「ハンドレッドタッチ」だった。チーム全員が1日100回ボールに触る。それはシーズンオフも徹底された。

 シーズンオフ、ラグビー選手の多くは身体作りに打ち込む。試合のない時期の方が、ウエートトレーニングに専念できる。腰を据えて身体をデカくすることに取り組めるからだが、そんな時期もボールに触ろうと田邉は訴えた。チームが始動すると、全体練習の後でFWの選手を集めてハンドリングセッションを毎日行った。

「ラグビーボールだけでなく、サッカーやバレーのボール、テニスボールも使いました。強く打って捕球させたり、わざと捕りにくいところへ投げたり打ったり、選手には片手で捕るようにさせたり。難しいから失敗も多いけど、それを承知でチャレンジさせました」

 選手たちはゲーム感覚でハンドリング練習に取り組み、捕球するためのフットワークも自然に身についた。小さなテニスボールを素手で何度も捕るうち、大きなラグビーボールは難なく捕球できるようになった。今季、スピアーズの、特にフロントローのハンドリングスキルは目を見張るほどに向上した。

【次ページ】 「BKにはキックを磨かせた」

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