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「80分ではなく4800秒と意識させた」スピアーズ田邉コーチの証言でわかった“12季ぶりラグビー新王者の誕生”が偶然ではない理由
posted2023/06/05 17:01
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph by
Nobuhiko Otomo
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝。これは快挙だ。
ラグビーリーグワンは、前身のトップリーグが生まれた2003年度から18シーズン、優勝したチームは4チームだけだ。初代王者の神戸製鋼、その後に王座についた東芝府中(東芝)、サントリー、三洋電機(パナソニック)。トロフィーはこの4チームの間で回されてきた。
最後の「初優勝」は2010年度の三洋電機(パナソニックになる前のシーズンだ)。今回のスピアーズの初優勝は、それ以来12季ぶりの「新王者誕生」になる。日本選手権も加えれば2014年度のヤマハ発動機ジュビロ(現・静岡ブルーレヴズ)があり8季ぶり6チーム目だが、それでも優勝チームは1つしか増えない。
かくも貴重な「初優勝」だが、スピアーズにはこれまで頂点を掴んだ他チームとは違う背景がもうひとつある。それは「下部リーグ降格」の経験だ。
転機となった田邉コーチの就任
2010年度にスピアーズは1勝1分11敗という成績で14チーム中13位になり下部降格。2011年度と2012年度は地域リーグのトップイーストで戦った。下部降格を経験したチームが日本一に上り詰めたのも、今回が初めてだ。
スピアーズは2013年度にトップリーグに復帰。そこからじわじわと順位を上げたが、歩みは遅かった。そのシーズンは9位に食い込んだが、2014年度は13位へ下降した。
現在のフラン・ルディケHCが着任したのは2016年だった。南アフリカのブルズでスーパーラグビーを2度制覇した名将は、武骨なFWが愚直にハードワークを重ねて勝利を目指す南アのラグビー文化を船橋市のクボタ京葉工場敷地内のグラウンドに持ち込んだ。
じわじわと力を高めたスピアーズの成績が上昇に転じたのが2019年度だった。ラグビーW杯イヤーのプレシーズン、6〜8月にW杯スコッドを除いた編成で行われた「トップリーグカップ」でスピアーズは決勝まで勝ち進み、神戸製鋼に敗れたものの、チーム史上最高成績となる2位に食い込んだ。
そして2020年度、トップリーグのラストイヤーにはプレーオフ(順位決定戦)準々決勝で前王者の神戸製鋼を破り4強進出。リーグワンに再編された2021年度は3位に順位をあげ、今季(2022年度)は初めてプレーオフ準決勝を突破すると、無敵の王者埼玉ワイルドナイツを破って初のリーグ制覇を成し遂げたのだ。
転機となった2019年度にチームに加わったのがアシスタントコーチの田邉淳(44歳)だ。