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「一度は死んだ命だと…」エディーの叱責、沢木敬介のクビ通告…どん底から日本代表まで上り詰めた“サラリーマン“小澤直輝(34歳)最後のトライ
posted2023/06/14 11:01
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Aki Nagao
輝かしい峰を制覇したこともあれば、暗い谷底を歩んだこともある。
正式退団直後の2023年6月1日。ワイシャツ姿でインタビューを受けるサントリーの会社員は、笑顔でゴールテープを切った長距離ランナーに似ていた。
泥臭いプレーを徹底してきた東京サントリーサンゴリアスの職人バックロー(フランカー、No.8)は、眩しく、爽やかだった。
「最後は負けてしまい残念でしたが、いろんな経験をさせてもらいました。未練はないです」
サラリーマン選手ながらラグビー日本代表にも招集された小澤直輝(おざわ・なおき)は、12年在籍したサンゴリアスでジャージーを脱いだ。今後は社業に専念する。
「いつ辞めてもいいと伝えていた」
引退試合はリーグワンの3位決定戦。フランカーとして先発したが6点差で敗れ、チームは4位フィニッシュとなった。
「最近は飲み会が多くて、まだ寂しさはないんですよ(笑)」
みずからの引退に言及した後、小澤はそう言って顔を綻ばせた。さらりと場を和ませるあたりが勤続12年の営業マンらしい。
桐蔭学園高では2、3年時に全国大会「花園」を経験。慶應義塾大では副将も務め、サンゴリアスには13年在籍したから、仲間は多い。慰労会の話が次々に舞い込むのだろう。
5月27日に行われたサンゴリアスのファン感謝祭では、嬉しい言葉をたくさんもらった。現役引退を驚く声もあったという。
ただ今シーズン中にチームと話し合い、決断した。
「今シーズン、チームと何度か話す機会があって、雑談ベースでも『いつ辞めてもいいです』と伝えてはいました」
「30歳を超えてから毎年最後のつもりでプレーしてきました。ただ、もちろん引退したいわけではなく、いつも試合に出たいと思って、最後まで切らさないことをプライドにしてやってきました」
最終的にはチームから提案があり、決断した。桐蔭学園中1年から始まった楕円キャリアに、ピリオドを打つ。
昨季はファイナルを含めて12試合にフランカーで先発したが、今季は2試合出場。代わりに若手が台頭した。慶大の後輩でもある23歳の山本凱。24歳の箸本龍雅。同学年で昨年代表デビューした下川甲嗣らだ。
「今シーズンは若手も活躍できたシーズンでした。この2年間くらいは、競争をしつつ、年が離れているので技術的なことを伝える作業をしてきたつもりです」
ラストシーズンの出場機会は減ったが、胸を張って言える。やり切った。どんな谷底からも這い上がった。
挑戦する自分で、在り続けた。