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球数減らして大進化! カープ九里亜蓮の投球を激変させた藤井コーチのある言葉と「ゾーンで勝負する」投球術
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/05 11:00
プロ10年目にしてキャリアハイの成績を狙わんばかりの九里。その表情は明るい
昨季のマウンド上では、投球後にバックネット上方の球速表示に視線を送るしぐさが何度も見られた。だからか、その日の調子はそのまま投球テンポに表れていた。
球に強さを感じているときはストライクを先行させられても、感じられないときは両サイドの隅を狙ってかわす投球となる。それは、本人が口癖のように言う「ゾーンの中で勝負」とは異なる姿だった。
持ち味である多彩な球種も、カウントが不利になると信頼性の高い球種に偏る傾向があった。そうなると狙い球を絞られる 。昨季のカウント別被打率を見るとストライクが先行したカウントでは.196だったが、平行カウントでは.307まで上がり、ボールが先行したカウントでは.310となっていた。 数字に置き換えれば、より鮮明となる。
だからこそ、ストライクを先行させ、さまざまな球種で打者に的を絞らせないことは、九里にとって何より重要だった。
わずかな変化で得た大きな成果
意識を変えて臨んだ4月11日の中日戦では、8回4安打1四球無失点で今季初勝利。打者27人に対して、要した球数は97だった。
「いろいろ考えて打者の反応を見ながら、ゾーンの中でしたいピッチングと、自分の持っているものをしっかりマウンドで表現できた」
ストライクを先行させるだけでなく配球に偏りをなくし、相手が持っているであろうイメージやデータを逆手に取った。打者に考えさせることで豊富な球種が有効な手札となり、心理戦で優位に立てる。この日から25イニング連続で自責点ゼロ。結果がついてきたことは大きな自信となった。
「1球目に打者がどう反応をするかを見て、(次の球種を)考えることが多くなった。気持ち的にもそっちの方がいいのかなと思うし、結果的に球数も少なくなっているのかな」
打者1人に対する球数が減れば、自ずと1イニングの球数も少なくなる。今季の1試合の平均投球回6.9回は最多勝を受賞した2021年よりも1イニングも長く、昨季の5.3回を大きく上回る。
一方で奪三振率は5.52と入団3年目までの水準に下がっており、力でねじ伏せる理想とは違っているかもしれない。だが、被打率、被出塁率、被長打率、WHIPと、いずれもキャリアハイを大きく上回る。考えかたを変えるだけで得た成果は、数字が雄弁に語っている。
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