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「藤井さんの精神面での隙のなさは、羽生さん以上かもしれません」中原誠十六世名人が語る、藤井聡太&羽生善治の“稀有な共通点”と“強調したい違い” 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

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photograph byMiki Fukano

posted2023/06/02 17:10

「藤井さんの精神面での隙のなさは、羽生さん以上かもしれません」中原誠十六世名人が語る、藤井聡太&羽生善治の“稀有な共通点”と“強調したい違い”<Number Web> photograph by Miki Fukano

「棋界の太陽」中原誠が、取材時の2020年に18歳だった藤井聡太と、18歳だった頃の羽生善治を静かに語る――

羽生と藤井の稀有な共通点

 盤面を挟んで向き合った18歳当時の羽生善治と、いま18歳の藤井聡太。この2人に中原はどんな印象を持っているのだろうか。

「羽生さんも藤井さんも、18歳の時点ですでに整っていますよね。新人の場合は、攻めは強いけど受けは下手とか、終盤は強いけど序盤は荒っぽいとか、普通はそういう整っていない面が見られるものなんですが、お二人は、早くから序盤から終盤まで全部整っています。稀有な共通点と言っていいでしょう。羽生さんもその年齢とは思えないほどの落ち着きがありましたが、藤井さんの精神面での隙のなさは、羽生さん以上かもしれません。『羽生睨み』(勝負所で相手に鋭い眼光を飛ばす特徴的な仕草が話題になった)のような、指し手以外のところに言及した形容が、藤井さんにはありませんよね。そこも強調しておきたいです」

藤井は時代に合ったニュースター

 自身の時代にはなかった、ネットによる対局中継をいつの間にか熱中して見てしまっていると告白する中原が、藤井将棋の魅力を重ねて語る。

「とにかく、見ていて面白い。谷川さん、羽生さんもそうですが、プロがいつまでも見ていたくなる将棋を指しています。新しいことをやろうとしているのがわかりますし、どこまで強くなるかわからないという意味では空恐ろしいとも感じる。私はもう現役棋士じゃないから気楽なんだけど、それでもワクワクしながら見ています。競馬に例えれば、常に上がり32秒台の末脚で伸びてくるのが藤井さん。ABEMAでは、AIによる形勢メーターみたいなのが表示されていて、私などはその数字に違和感を拭えないままで見ているんですが、それでも最終盤になるほど正解に近い手を指し続ける凄さは、将棋ファンの裾野を広げる大切な役割を果たしているかと思います。我々の時代には、NHKのBS放送が2時間ぐらいの枠で名人戦と竜王戦を放送してくださったのですが、静止画のように動きがないし、解説の棋士も『難しい』しか言わなかった(笑)。それと比べると、将棋をよく知らない人にも見ていただきやすくなりましたよね。藤井さんは、この時代に合わせたように現れたニュースターです」

 55歳下の藤井二冠にやさしい眼差しを向ける中原は、「いまは将棋一本でいいでしょうけど、それだけでは長続きが難しくなるかもしれません。渡辺明新名人とは共通の趣味である競馬の話で盛り上がったことがあります。棋士は馬であり、騎手であり、調教師でもある。対局に向けて自分の調子を上げていくことの機微は、競馬を知っている同士じゃないと分かり合えませんからね。藤井さんがこれからどんな趣味を持たれるのかも、密かに見てまいるつもりです。将棋と離れる時間を持つことも、これからのさらなる進化につながるはずですから」と話す。その姿はまるで、実の祖父のようだった。

中原誠なかはらまこと

1947年9月2日、宮城県生まれ。(故)高柳敏夫名誉九段門下。1965年四段。1973年九段。タイトル戦登場は91回。獲得は名人15期、十段11期、王位8期、王座6期、棋王1期、王将7 期、棋聖16期の計64期。棋戦優勝28回。2003年より日本将棋連盟会長を1期務めた。2009年、引退。

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