「年間100局をノルマとして、プロの碁を盤上に並べています。成果? フフ、もちろん上がっていて、碁は強くなったと思います。歩くこと以外には不自由がないので、原稿も自分で書いていますし、競馬も相変わらず見て、馬券も少し買っているんですよ。ほかはやっぱり将棋を見ること。ネットの生中継が面白くて、藤井さん(聡太二冠)の将棋は引き込まれるように見てしまいます」
中原誠十六世名人は2009年、竜王戦のランキングで最高位の1組に在籍したまま、病気を理由(脳出血の治療中に大腸ガンが見つかった)に61歳の若さで表舞台から静かに姿を消した。
あれから11年あまり、健康状態が気になっていたのだが、「フフ」と小さく声に出して微笑む話し方は、憧れの絶対名人そのまま。古くからの将棋ファンしか知らない「棋界の太陽」のニックネームがしっくりした形で戻って来て、それだけでうれしくなってしまった。
二回り年下の挑戦者に困った
藤井が更新するまで、タイトル挑戦(17歳10カ月24日)とタイトル獲得(18歳6カ月)の最年少記録保持者は屋敷伸之(当時五段。現九段)だった。'89年、'90年と、その屋敷の挑戦を受けたのが、当時棋聖の中原である。屋敷との年齢差は24。30年前の年の差対決について振り返ってもらった。
「自分は盤面だけを見ているタイプだと、ずっとそう思っていたんですが、屋敷さんの挑戦を受けたとき、そうじゃないことに気付きました。挑戦者は、私の長男とほぼ同じ年で二回りも下。目の前に座っている若者に対して、闘志もなにも湧いてこなくて困りましたね。同世代や先輩と指すときは自然と気持ちが入ってくるわけで、だから盤面だけを見ていればよかったんです。そう考えたときに、私より二回り年上の大山先生(康晴十五世名人)はやりにくかったんだろうなと、そのときに初めて察しました。こちらは屋敷さんの側にいて、上の人の気持ちなど考えもせずに思い切りぶつかっていきましたからね」
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