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今明かされるファイターズ新球場決定の”運命の日” 日本ハム取締役会は揺れた!「札幌と北広島、劣っている部分はどこか?」敵なのか、味方なのか…
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/05/25 17:01
2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」
北海道へ移転した当初、オーナーだった大社はすでに球団理念に沿ったホームスタジアム構想を抱いていた。札幌ドームに受け入れてもらうことはできたが、いずれは野球を観るためだけではなく、人と地域を繫ぐ空間を自分たちで運営していかなければならないと考えていた。2014年に札幌で開かれた地元新聞社主催のフォーラムでは天然芝球場と少年野球場、多目的アリーナや商業施設を札幌ドーム周辺に造る構想を示した。そこには円山公園の陸上競技場を活用した総合スポーツ施設のイメージも含まれていた。
ただ、大社の構想はあくまで行政が建てた施設をベースにしたものだった。本社の負うリスクをゼロにしたかったからだ。背景には本社の代表取締役社長として経験した2002年の牛肉偽装事件があった。国内での狂牛病発生をきっかけに、食肉メーカーの補助金不正受給問題が相次いで発覚したあの事件である。当時、大社にはルールを破ったという感覚はなかった。だが、現実には民法400条・善管注意義務違反にとわれた。
『特定物の引渡し義務を負う者はその引渡しが完了するまで、その特定物を善良な管理者の注意義務をもって保存しなければならない』
あの事件を思い起こす度、後悔に襲われた。他企業による不正受給が発生した後、政府の要請で業界各社が自主検査を行った際に、なぜ自ら子会社の冷凍庫を開けて確かめなかったのか。なぜ病巣が自分たちの足元に迫っていると疑わなかったのか。
球団を飛び出した前沢に大社が会った理由
落とし穴は自分が見えないところに潜んでいる。社長の座を降りることになったこの事件で嫌というほど思い知らされた。以来、大社は執拗なまでのリスクヘッジを自らに課すようになった。球団理念の具現化は常に頭にあったが、あくまでリスクの低い公設民営ボールパークの域を出なかったのはそのためだった。
ところが前沢と三谷はリスクに挑むように自前の新スタジアム計画を出してきた。周囲の制止を振り切るように突き進んできた。大社も心のどこかで分かっていた。理想というのは、彼らのように胸に青い部分を宿した者でなければ実現できない。前沢が球団を飛び出した後、頻繁に会いに行ったのも、ファイターズにとって必要な男だと感じていたからだった。
彼らはリスクを怖れなかった。その本当の怖ろしさを知らないとも言えた。ならば自分が鳥の眼をもって、彼らの行く道にある落とし穴を見つけ示してやればいいーー大社はずっとそう考えてきた。