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今明かされるファイターズ新球場決定の”運命の日” 日本ハム取締役会は揺れた!「札幌と北広島、劣っている部分はどこか?」敵なのか、味方なのか…
 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/05/25 17:01

今明かされるファイターズ新球場決定の”運命の日” 日本ハム取締役会は揺れた!「札幌と北広島、劣っている部分はどこか?」敵なのか、味方なのか…<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

2023年から日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」

 ーー本当にその場所で大丈夫なのか? 会議室に9人いる取締役の中から一つでもそうした発言が出れば、結論は呆気なくひっくり返ってしまいそうな気がした。それだけ、あらゆることが不確定だった。

 冷静に商業圏ということで考えれば、札幌か北広島かという市町村の境界線はあまり意味を持たないはずだった。だが、多くの人間がそうした感覚は持ち合わせていなかった。 こちら側とあちら側。大都市と地方都市。心の中に見えない境界線を引いていた。その狭間で天秤は激しく揺れ動いていた。 

一体、何が目的なんだ…敵なのか味方なのか

 眼前では大社と前沢のやり取りが続いていた。途中、監査役から資料について質問があったものの、会議室にはほとんど2人の声だけが響いていた。大社の問いは鋭利で、少しでも前沢が答えに窮すれば天秤は自分たちが望む反対側へと傾いてしまいそうだった。

 一体、何が目的なんだ......。三谷は大社の真意を測りかねていた。球団と本社で組織し たタスクフォースチームの一員としてプロジェクトを成功に導いてくれる存在かと思えば、会議では急所を突くような問いを投げてくる。敵なのか味方なのか、分からなかった。 

 三谷は会議室を見渡した。他の取締役たちは大社と前沢が対峙するのを見守っていた。 

 その中に代表取締役専務の川村浩二もいた。

「私は反対だからーー」 

 初めて顔を合わせた時に面と向かって言われた。誰よりもプロジェクトに対する厳しい眼を持ったこの人を説得しなければ道は開けないと考えてやってきた。その川村は冒頭から沈黙を保ったままだった。大社が放つ質問の矢と、取締役たちの不気味な沈黙の中、三谷は耐えるしかなかった。

 どれくらい時間が経っただろうか。1月に就任した代表取締役社長の畑佳秀が言った。

「他にご質問ないでしょうか?」 

 三谷は身を硬くした。

「それでは候補地選定に関しては、これで承認ということでよろしいでしょうか?」 

 三谷は祈るように会場を見渡した。取締役たちは口を閉ざしていた。川村もじっと前を見つめたままだった。祈る三谷には、その時間が永遠のように感じられた。

<前編から読む>

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