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「何かがおかしい…」ファイターズ番記者が気づいた新スタジアム建設の”予兆” 極秘計画の存在を記者はなぜ知ったのか? 脳裏に浮かんだある人物の顔
posted2023/04/19 06:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kiichi Matsumoto
ベストセラー『嫌われた監督』の作家・鈴木忠平氏が描いた『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(文藝春秋)を一部抜粋して紹介します。【全2回の前編/後編へ】
◆◆◆
夏の陽射しが地面に濃い陰影をつくり出していた。高山通史は地面から立ち昇るアスファルトの匂いを嗅ぎながらマルボロ・ライトに火をつけた。紫煙が夏空に消えていくの見ると、時間の流れの速さを思わずにいられなかった。
また、この時期がきたか……。自分が新聞記者であることを実感する季節だった。
札幌ドームに隣接するファイターズの球団事務所、そのエントランス脇に小さな三角形の灰皿スタンドがある。高山は毎年夏になるとそこで張り込みを始めた。日刊スポーツ新聞社の日本ハム担当記者になって12年、ずっとそうしてきた。ひと気の少ない時間を見計らって、じっと取材対象が現れるのを待つ。球団職員以外の部外者が出入口に立っていれば普通は不審の目が注がれるが、建物が夏の陽射しを遮って影になっていること、喫煙者用の灰皿があることがそこに立つ理由となり、張り込みの隠れ蓑になってくれた。
まだシーズン真っ盛りの時期から張り込むのには理由があった。
「記者にとっての公式戦はオフシーズンのストーブリーグだ。そして、ストーブリーグの取材は夏のうちに終わる」
新聞社に入ってから年長者にもらった言葉だった。ストーブリーグとはプロ野球がオフシーズンとなる秋以降に繰り広げられる各球団の補強合戦のことであり、それを報じる新聞各社のスクープ合戦のことだ。高山が夏の気配とともに動き出すのはその冬の戦いに勝つためだった。
ファイターズGMを狙って待っていたが…
ナイター開催日の昼前、札幌ドーム周辺はまだ静かだった。他のメディアも見当たらず、時おり球団職員が昼食休憩に出てくるくらいだった。高山はそのタイミングを狙っていた。ターゲットは吉村浩。このチームの人事権を握っているGMであり、ファイターズ番の記者にとって最大のニュースソースと言ってもいい人物だった。