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アーモンドアイは桜花賞で“実は2番人気”だった…ルメールと調教師の言葉で振り返る、「性別を超える名馬」はいかに誕生したのか?
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/09 11:01
2018年の桜花賞を制したアーモンドアイとクリストフ・ルメール
アーモンドアイは「特別な牝馬」だった
直線入口では先頭から7、8馬身離れた後方にいたアーモンドアイは、鞍上のクリストフ・ルメールが促すと、大外からとてつもない末脚を繰り出した。ラスト200m地点でラッキーライラックの3馬身ほど後ろに迫り、ノーステッキのまま、ラスト100m付近で並ぶ間もなく抜き去った。アーモンドアイは最後まで伸びつづけ、2着となったラッキーライラックを1馬身3/4突き放し、先頭でゴールを駆け抜けた。
強いの何のって、ラスト3ハロン33秒2というメンバー最速の上がりタイムは、2番目に速かった馬より1秒も速かった。
突出した競走能力を持つばかりでなく、普通の馬では考えられない走り方をする馬だった。どういうことかというと、この桜花賞の直線で、筆者が確認できただけでも、6回ほど手前を替えて走っていたのだ。普通、何度も手前を替えるのは、苦しくなったか、集中していないかのどちらかなのだが、アーモンドアイの場合は、2歳女王を瞬時にかわしてしまうほどの速度を出しながら替えていたので、あれがデフォルトなのか。とにかく、常識でははかり切れない馬なのである。
「残り300mからずっと加速するのは珍しい。特別な牝馬だと思う」というルメールの言葉も、アーモンドアイの能力が尋常ではないことを示していた。
私たちが目撃した「とんでもない桜花賞」
それを聞いて筆者が思い出したのは、武豊がディープインパクトでダービーを勝った直後に評した言葉だった。
「この馬は瞬発力がつづく。ドーンとそのままゴールまで行くんです」
トップジョッキーがこうした表現をあてた馬は、筆者の知る限り、アーモンドアイとディープしかいない。
2着に敗れたラッキーライラックだって、翌19年と20年のエリザベス女王杯を連覇し、20年の大阪杯ではダービー馬2頭を含む牡馬勢を蹴散らした名牝である。
そして、当のアーモンドアイは、牝馬三冠を圧勝し、ジャパンカップと天皇賞・秋をそれぞれ2勝したほか、ドバイターフ、ヴィクトリアマイルと、史上初めて芝GIを9勝するという金字塔を打ち立てた。
つまり、アーモンドアイとラッキーライラックは、自分たちの走った桜花賞の価値をのちに高めたと言えるわけだ。私たちは、とんでもない桜花賞を見ていたのである。