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〈名人戦先勝〉藤井聡太竜王が小4で「名人をこす」と記して10年後の“頂上決戦”、渡辺明名人「最大の関心は…」それぞれの思いとは 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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photograph by日本将棋連盟

posted2023/04/07 17:00

〈名人戦先勝〉藤井聡太竜王が小4で「名人をこす」と記して10年後の“頂上決戦”、渡辺明名人「最大の関心は…」それぞれの思いとは<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

椿山荘で熱戦の幕が開けた第81期名人戦。渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑んでいる

 その渡辺は2020年に新名人になったとき、「永世称号は竜王と棋王の二つを持っているので、永世名人についてはそれほど意識していません。最大の関心は、タイトル戦に出場し続けることです。タイトル戦に出られなくなったら、気持ちの張り合いがなくなるかもしれません」と語っていた。

 渡辺名人は、2020年の棋聖戦で1勝3敗、2022年の王将戦で4連敗、2023年の棋王戦で1勝3敗と、いずれも挑戦者の藤井に敗退を喫してタイトルを奪われてきた。

 今期の藤井竜王との名人戦は、「唯一の居城」を死守する勝負だが、自身のモチベーションを維持するための戦いでもある。

藤井が小4で「名人をこす」と書いた理由

 藤井竜王は小学4年生のとき、クラスの文集に次のように書いた。

 関心があることは、電王戦(棋士と将棋ソフトの勝負)の結果、尖閣諸島や原発の問題など。面白かった本は、百田尚樹『海賊と呼ばれた男』、沢木耕太郎『深夜特急』など。好きな食べものは、刺し身、味噌煮込みうどんなど。

 将来の夢としては、大きな字で「名人をこす」と書いた。通っていた子ども将棋教室の指導者に、「名人を目指すのではなくて、名人を超えていきなさい」と言われたことが影響したようだ。

 藤井は小学校の卒業アルバムの作文で「ぼくと将棋」と題して、将棋を覚えた頃、子ども将棋教室に通った思い出、棋士養成機関の奨励会(藤井は当時初段)の制度などについて書いた。そして、《三十才までに将棋界の横綱になりたい》と結んだ。

 藤井は子どもの頃から相撲が好きだった。4年生のときに立てた「名人」という目標を、大相撲の最高位である「横綱」に例えた。「三十才まで」という期限は、現在の地位や実績から見るとかなり遅いが、将棋界は厳しい世界という思いが強かったのだろう。

「名人は時代を代表する地位という印象」

 藤井は2016年にデビューして以来、公式戦で驚異的な成績を挙げ、今や六冠のタイトルを有している。しかし、これまでのインタビューや対談などで、地位や記録にこだわらないこともあるが、名人という言葉をほとんど発してないようだ。

 藤井は2022年3月に順位戦でA級に昇級したとき、「来期はA級という舞台で、挑戦者争いにからめるように頑張りたい。名人という称号は、江戸時代から続くものなので、そういう重みがとても大きいと思います」と、歴史的な観点から名人について語った。私の知るかぎり、名人という言葉を使った数少ない例だと思う。

【次ページ】 藤井にとって「子どもの頃からの憧れ」

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