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〈名人戦先勝〉藤井聡太竜王が小4で「名人をこす」と記して10年後の“頂上決戦”、渡辺明名人「最大の関心は…」それぞれの思いとは
posted2023/04/07 17:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
渡辺明名人(38)に藤井聡太竜王(20=王位・叡王・棋王・王将・棋聖を合わせて六冠)が挑戦している第81期名人戦七番勝負。渡辺名人が防衛すれば名人戦「4連覇」となり、藤井竜王が名人を獲得すれば「七冠」を達成する。2023年度の初頭の大きな勝負だ。その名人戦第1局は4月5日・6日に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で行われた。両者の名人位への思い、第1局の戦いぶりなどについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】
渡辺が味わったA級順位戦での“あと1勝”
渡辺名人は最高棋戦の竜王戦で、2004年から9連覇していた。
渡辺は90年近い伝統と格式がある名人戦では、挑戦者を決めるA級順位戦へ2010年に昇級した。その後、好成績を毎期にわたって挙げたが、あと1勝が足りず挑戦者争いから外れたことがあった。
2016年には後輩の佐藤天彦八段が挑戦者になり、羽生善治名人を破って名人を獲得した。2017年にも後輩の稲葉陽八段が挑戦者になり、佐藤名人と後輩同士で対戦した。
渡辺はそんな状況で、名人戦は自分には縁がないものと思うようになったという。さらに2018年のA級最終戦で、順位3位と上位で4勝6敗の成績ながら、連続8期在籍していたA級から降級する不運に見舞われた。同年最終戦の挑戦者争いの結果は、6人の棋士が6勝4敗で並ぶ大混戦となった。それで星がならされ、降級枠が3人に増えたことも原因だった。
渡辺は順位戦でA級から降級し、名人位への思いはぷっつりと切れたという。ある取材に答えて、「自分が名人戦に出ることはもうないと思います」と語った。
渡辺は2017年度の公式戦で初めて負け越した。以前に比べて何が違うのか。自分の将棋の長所と短所、現代将棋への対応、AI(人工知能)の利用法などについて、改めて考え直してみた……。
B級1組順位戦に臨むにあたって、A級復帰よりも不安の方が大きかったという。しかし、初戦に勝って気持ちが楽になり、AIを用いた作戦も功を奏した。将棋の見直しで技術的にも改善した。2019年に12戦全勝でA級へ1期で復帰した。さらに翌期のA級順位戦でも9戦全勝し、名人戦の挑戦者に初めてなった。
渡辺名人にとっての「最大の関心」とは
2020年の名人戦で渡辺三冠は、豊島将之名人を4勝2敗で破り、名人位を初めて獲得した。縁がないものと思っていた名人戦で、見事に「大願成就」を果たした。
渡辺名人は2021年と2022年の名人戦で、斎藤慎太郎八段の連続挑戦をいずれも退けた。今期の名人戦で防衛すれば4連覇となり、通算5期で取得する「永世名人」への道が開かれてくる。