オリンピックへの道BACK NUMBER
立ち尽くす三浦に木原は「見てごらん」と声をかけ…“りくりゅう”が築き上げた、ふたりならではの世界「(僕は)飼育員なんで」「(私は)動物か?」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2023/03/28 17:02
フリーの後半、ジャンプで転倒した三浦璃来は演技後に顔面蒼白で立ち尽くしたが、木原龍一が近寄り…
立ちつくす三浦に「見てごらん」
「見てごらん、こんなにたくさんのお客さんが手を叩いて、称えてくれているよ。胸を張って帰って行こう」
観客席に無数の国旗やバナーが揺れていた。拍手と歓声はやまない。木原の言葉で三浦は気を取り直すと、ふたりは挨拶をしてリンクから引き揚げる。ブルーノ・マルコットコーチに迎えられた三浦は涙が止まらない。
得点が出る……141.44点。合計は222.16点。フリーの得点は北京五輪時の自己ベストを上回り、合計では世界歴代6位の記録を叩き出した。優勝が分かった瞬間、悔し涙は喜びと安堵の涙に変わった。
完璧な演技とはならなかった。それでも優勝を手にすることができたのは、それを補って余りあるふたりの魅力があったからだ。どちらかというと力感を思わせる海外のペアに比べ、「ざっくり言うとスケートの相性が合っている」(木原)というふたりだからこそ、他にないスピード感あふれる滑りを氷上に展開することができる。
久しぶりに日本で試合ができて、力になりました
ふたりの豊かな、とりわけ明るさが印象的な表情もあいまって、ふたりならではの世界を築いてきた。技術面の進化に加え、試合後の今後の課題として「指先」にも言及したように、細部まで表現を磨いてきた。
昨年12月の全日本選手権ではロストバゲージで欠場を強いられた。
「久しぶりに日本で試合ができて、力になりました」(三浦)
その言葉の通り、観客席からはフリーのあとに限らず、試合を通じて拍手と歓声がふたりにおくられた。
今シーズンは三浦が肩を負傷し、1カ月以上一緒に練習できない期間が生じた。焦燥にも駆られそうなとき、支えとなったのはマルコットコーチの言葉だった。