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藤井聡太六冠20歳は“欠点、死角が皆無”…「持ち時間が長時間対局での残り時間」のスゴさを元A級棋士・田丸昇九段が調べた
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/23 11:02
20歳にして「最年少六冠」を達成した藤井聡太・新棋王。新年度の挑戦も楽しみだ
持ち時間を使い切って1分将棋の秒読みになったのは9局あり、3勝6敗と負け越ししている。難解な形勢だからこそ持ち時間を使い切るわけで、勝率は落ちがちになる。
藤井は今年度のNHK杯戦や銀河戦などの短時間の棋戦で優勝したように、もともと直感力が良く秒読みになっても間違いなく指せる。それでも前述の教訓から、持ち時間をできるだけ残して指しているようだ。前記の約50局のうち、10分未満の残り時間は9局あり、いずれも勝っている。
谷川十七世名人も語っていた“進化”とは
将棋界のレジェンドである谷川浩司十七世名人(60)は、「藤井さんは以前なら未知の局面で長考に沈んだものですが、序中盤が進化したことによって、そんな場面が少なくなりました。持ち時間の消費で改善が見られます」と語っている。
第2図は、渡辺棋王が藤井竜王に勝った棋王戦第3局での終盤の変化局面の部分局面。
藤井はその数手前に王手を誤り、相手玉はぎりぎり詰まなかったが、別の王手を指せば詰んでいたのだ。1分将棋の秒読みに追われていて、2つの王手の選択肢を間違えてしまった。
第2図から、▲2六飛△同玉▲3八桂△2七玉▲1六銀(第3図)で詰んでいた。△同玉は▲2六金、△同成桂は▲2八金、△1八玉は▲2九金で、いずれも詰み。▲1六銀は詰めの手筋で、さすがの藤井も約10手前の局面では読み切れなかったようだ。それにしても双方の玉がこれほど接近する形は珍しい。
師匠・杉本八段が語っていたエピソード
2022年度の藤井竜王のタイトル戦でのエピソードを紹介する。
藤井の師匠の杉本昌隆八段(54)は、「名古屋でのタイトル戦の対局が増えているのは、地元の藤井(愛知県瀬戸市)にとって大きい」と語った。
叡王戦の第2局と第4局(勝負が決着して未対局)は名古屋市、王位戦の第1局は周辺の犬山市、棋聖戦の第4局は名古屋市が、いずれも対局場となった。タイトル保持者の地元でタイトル戦が行われることは、以前にもよくあった。藤井が六冠を取得したので、今後は名古屋市など愛知県での対局は増えるだろう。