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藤井聡太六冠20歳は“欠点、死角が皆無”…「持ち時間が長時間対局での残り時間」のスゴさを元A級棋士・田丸昇九段が調べた 

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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posted2023/03/23 11:02

藤井聡太六冠20歳は“欠点、死角が皆無”…「持ち時間が長時間対局での残り時間」のスゴさを元A級棋士・田丸昇九段が調べた<Number Web> photograph by JIJI PRESS

20歳にして「最年少六冠」を達成した藤井聡太・新棋王。新年度の挑戦も楽しみだ

 藤井竜王は過去5期の棋王戦で、挑戦者決定トーナメントでベスト16が最高の成績だった。今期は準決勝に進出して佐藤天彦九段(当時34)に敗れたが、棋王戦に固有の敗者復活戦(ベスト4以上の棋士が出場)で再起を目指した。以後は伊藤匠五段(20)、羽生九段(52)、佐藤九段との挑戦者決定二番勝負などで、4連勝して挑戦者になった。

 敗者復活戦の4局は、11月29日から12月27日までの1カ月間に行われた。ほかの対局と並行した過密な対局日程で、まさに「当たるを幸い薙ぎ倒す」ような進撃ぶりだった。しかし、藤井竜王は同年の伊藤五段との対局では、飛車と竜で攻められて危機に陥った。仕方なく玉を中段に上げて逃げていった。

 第1図は、終盤の部分局面。伊藤の△6五竜に▲同歩は、△9三金▲8五玉△7六飛成▲9六玉△8四金で受けがない。藤井は▲9三歩△7五竜▲8三玉と敵陣に入り、危地を何とか脱した。さらに▲5二玉と逃げ込むと、至近距離の3二にいる相手玉を寄せにいって勝った。

 サッカーに例えると、一方のゴールキーパーが相手の陣地に行ってシュートしたようなものだ。藤井にとって、冷や汗をかいた勝利だった。

「13期連続タイトル戦制覇」と持ち時間の工夫

 藤井竜王は、2020年の棋聖戦で初タイトルの棋聖を獲得して以来、2023年の棋王戦まで13期連続でタイトル戦を制覇している。これは前人未到の驚異的な記録だ。

 藤井はデビュー後の2017年頃には、将棋がすでに完成していると評価された。その後、AI(人工知能)を用いた研究によって序盤の精度が高まり、タイトル戦の対局を通して中盤の攻防に磨きがかかり、詰将棋の抜群の解読力によって終盤の寄せがさらに強くなっている。つまり、欠点や死角がまったくないのだ。

 また、藤井は対局において持ち時間の使い方に工夫が見られる。

 藤井は以前に難しい局面では、持ち時間を惜しみなく使って納得がいくまで長考した。それは現在でも変わらないが、一局を通して時間配分を心がけている。持ち時間を使い切り、1分将棋の秒読みになるべく追い込まれないようにしているのだ。それは、4年前の敗戦が教訓になっている。

 2019年の王将戦リーグの最終戦で、藤井七段は広瀬章人竜王(当時32)に勝てば、タイトル戦で初めての挑戦者になれた。しかし、藤井は1分将棋の秒読みが約40手も続いていた終盤の土壇場の局面で、広瀬の王手に応手を誤って逆転負けしたのだ。藤井にとって、初めての挫折となった。

持ち時間3時間以上の対局の残り時間を調べてみると

 藤井竜王の2022年度の公式戦で、持ち時間が3時間以上の対局は約50局。それらの対局での残り時間を調べてみた。

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