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藤井聡太六冠20歳は“欠点、死角が皆無”…「持ち時間が長時間対局での残り時間」のスゴさを元A級棋士・田丸昇九段が調べた
posted2023/03/23 11:02
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
JIJI PRESS
渡辺明棋王(38=名人と合わせて二冠)に藤井聡太竜王(20=王位・叡王・王将・棋聖を合わせて五冠)が挑戦した第48期棋王戦コナミグループ杯五番勝負。その第4局が3月19日に栃木県日光市で行われ、藤井竜王が勝って3勝1敗として棋王のタイトルを初めて獲得した。藤井は20歳8カ月の最年少記録で「六冠」を達成した。今期の棋王戦での戦いぶり、13期連続でタイトル戦を制覇した強さなどについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】
棋王戦各局の展開を振り返る
棋王戦で10連覇していた渡辺棋王と六冠を目指す藤井竜王の対決は、将棋界の「頂上決戦」となった。両者の対戦成績は、棋王戦の開幕時点で藤井が13勝2敗と大きく勝ち越していたが、渡辺は本拠地といえる棋王戦での巻き返しが予想された。
第1局は激しい攻め合いが繰り広げられた。藤井が中盤で有利になると、渡辺の粘りを抑えて勝った。渡辺は局後に「勝負所がどこだったのかわからない」と語り、合点がいかない様子だった。第2局はねじり合いの戦いとなった。中盤で攻めを急いだ渡辺の疑問手が響き、藤井が大駒を巧みに駆使して寄せ切った。
第3局は174手に及ぶ大激闘となった。終盤の土壇場の局面で藤井が相手玉の詰みを見落とし(その局面は後述)、渡辺がきわどく逃げ切って勝った。第4局の戦型は4局連続で角換わり腰掛け銀。前例のある戦いから渡辺が研究の一手を指し、渡辺が攻めて藤井が受ける展開となった。やがて藤井が反撃に転じると、△4二桂と自陣に打った受け一方の駒が、30手後に△5四桂から△6六桂と跳ねて攻め込んだ順が見事だった。以降は藤井が巧みに寄せて勝った。
藤井竜王は渡辺棋王を3勝1敗で破り、棋王のタイトルを初めて獲得し、2人目となる「六冠」を達成した。そして1994年12月の羽生善治六冠(=竜王・名人・王位・王座・棋聖・棋王)の24歳2カ月を大きく更新する、20歳8カ月の最年少記録となった。
藤井竜王は「八冠」について問われると…
藤井竜王は終局後の記者会見で、「五番勝負で何とか結果を出すことができて良かったです。今後は六冠の立場にふさわしい将棋を指せるようにしたい。八冠(記者から問われて)については、そこを目指す意識はありません。実力を少しでも高めていくように、引き続き取り組んでいきたい」と語った。
渡辺名人は「もう少しチャンスがある将棋にしないと、なかなか結果はついてこない」と、敗者の弁を率直に語った。