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「大谷翔平のこんな姿、珍しいな」番記者がWBCで感じた“エンゼルスの大谷”との違いとは?「ベンチの最前列で高校球児のように…」
posted2023/03/20 17:09
text by
阿部太郎Taro Abe
photograph by
Naoya Sanuki
3月16日、米国行きの切符をかけたWBC準々決勝のイタリア戦。侍ジャパンの大谷翔平は中国戦と同じく、3番・DH兼投手として出場した。真っ新なマウンドに上がるとき、中指と人差し指を2本くっつけて額の前で振り、一人ひとりの審判にポーズを取った。いつもと変わらず審判をリスペクトし、打席に入るときには、相手のマイク・ピアザ監督にも合図を送る。「よろしくお願いします」の意を込めて。エンゼルスでのそれと変わらぬ姿勢だ。
3回1死一塁。大谷はファンを驚かせた。初球に相手の意表をつくセーフティバント。イタリアの守備陣形は明らかに、バントへの警戒はなかった。「大谷シフト」を敷いてサードは三遊間を守り、三塁方向はガラ空き。この隙を見逃さなかった。
エンゼルスでも見せていた「勝利のためのバント」
思い出したのは、2022年の4月20日。敵地でのアストロズ戦だ。
この日、大谷は5回まで誰ひとりとして走者を許さない完璧な投球をしていた。そして6回の攻撃、打席に立った大谷はセーフティバントを仕掛ける。6対0の大差でエンゼルスがリード。普通ならば“不文律”で、セーフティはご法度と言われる可能性がある場面だったが、パーフェクト投球をしていた投手が、相手のシフトの隙を突いて必死の形相で一塁を陥れた。ファンからは驚きの声があがったが、ブーイングは聞こえなかった。
「何点差だろうが、それは勝つための手段」
大谷はヒューストンでそう言った。
そして、イタリア戦後。大谷は先制点につながるバントヒットを、こんな言葉で振り返った。
「日本代表チームの勝利より優先する自分のプライドはない」
投打で出場しようが、打者に専念しようが、大谷の頭にあるのはシンプルに「勝利」だけだった。侍ジャパンの一員として仕掛けたバントに、ある意味で驚きはなかった。