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「大谷翔平のこんな姿、珍しいな」番記者がWBCで感じた“エンゼルスの大谷”との違いとは?「ベンチの最前列で高校球児のように…」
text by
阿部太郎Taro Abe
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/03/20 17:09
WBC、そして侍ジャパンへの情熱を隠そうとしない大谷翔平。シーズンを通じて取材する番記者が、“エンゼルスの大谷”との違いについて綴った
「自分の中で特別なものがあった」気迫の164キロ
一方で、「侍ジャパンだからこそ」の姿もあった。
「うりゃあ!」
イタリア戦の1回。先頭打者のサル・フレリックに対しての4球目。9日の中国戦では封印していたスプリットを投じた。
しんとした東京ドームに、大谷の声が響く。バットは空を切り、空振り三振。どよめきののち、地鳴りのような大歓声が沸いた。
「久々の短期決戦。独特の緊張感は、自分の中で特別なものがあった」
渇望していた「ヒリヒリ感」を、3月に感じることができたのだろう。試合後、シーズンより少しだけ高揚感を見せた大谷がいた。
エンゼルスでもマウンドで「よいしょ」といった声を出すことはあるが、試合の入り、4球目から気合がみなぎる姿は、シーズン中にあまり見た記憶はない。栗山英樹監督も「翔平があれだけ1球、1球声を出してなんとかしたいと。全員に伝わった」と目を細めた。
WBCが開催されている春先は、投手にとって調整が難しい時期だ。急激に上昇カーブを描くような、過度なペースアップは怪我につながる。それは一番大谷がケアしていることだ。
それでも、2回の20球目に投じた速球は164キロ。打者はその勢いと気迫に圧倒され、空振り三振を喫した。
大谷がリミッターを外した。思いが溢れた瞬間だった。
エンゼルスでは見られない「レアな大谷」とは?
侍ジャパンでは、アナハイムでは見られない「レアな大谷」の姿をしばしば目にする。
まずは練習前、球場がその一挙手一投足を見て酔いしれたフリー打撃の「SHO-TIME」。昨季も、一昨季もシーズンではわずか1度だったグラウンドでのフリーを、壮行試合でのナゴヤドーム、京セラドーム、そして東京ドームで計5度も行った。
軽々と飛んでいくボール、その飛距離、スイングスピード。球場はどよめき、騒然として、最後は大歓声が上がる。侍ジャパンの選手はもちろん、対戦相手の韓国やチェコの選手たちも、少年のような顔つきとなり、まさに目の前で繰り広げられる「ショー」を堪能していた。
昨季、大谷はグラウンドでのフリー打撃について「なかなか(先発)ローテーションで回りながら、毎試合DHで出ながらとなると、練習を調整して効率よく回すしかない」と語っていた。体調管理を優先させ、疲労を残さないように室内のケージでの調整がメインだったが、滅多にない日本への凱旋で、大谷流のファンサービスを行った、といったところか。