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どうしたホンダ? MotoGP開幕直前テストでも不振の理由と復活への道筋《昨年はコンストラクターズ最下位》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/03/17 11:00
テストのあいだ、こまめに仕様を変えては走行を繰り返したホンダのエース、マルケス。手術の回復具合も心配されるところだ
「勝てるライダー」は十分すぎるほど揃っている。ワークスチームのRepsol Hondaには怪我から復調しつつあるマルケスと2020年にスズキでチャンピオンを獲得したジョアン・ミルがいて、サテライトのLCR Honda CASTROLにも、スズキ時代にマルケスと名勝負を繰り広げて5勝を挙げたアレックス・リンスがいる。
「勝てる体制」については、グランプリにおいて巨大メーカーとも言えるホンダなのだから、資金も人材も揃っていることは間違いない。ただひとつ「勝てるマシン」がないことが、ホンダの低迷につながっている。
それではなぜ勝てるマシンではなくなったのか? 現代では徹底的に情報が秘匿されるので、ホンダがどんな体制でマシンづくりを行っているのか、肝心なところはわからない。ただひとつ言えるのは、もう昔のやり方では勝てない、ということだ。
グランプリの歴史を振り返れば、とにかく馬力のあるエンジンをつくることがタイトル獲得につながった時代が長かった。しかし、2009年にタイヤの1社供給が始まり、2012年にはエンジンのボア(シリンダーの内径)81mm、4気筒という規制ができた。2016年からは、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)が、ハード、ソフトともに共通となった。そこから急速に、エンジンパワーを活かすためのエアロダイナミクス化が進み、スタートデバイスなど新しいアイデアがMotoGPマシンに投入されることになる。
ホンダは過去のマシンづくりにはなかった部分で大きく出遅れ、ここに来て圧倒的な差をつけられるようになったのではないだろうか。
日本と欧州のモノづくりの違い
開発に多くの制約が課される現代のマシンづくりには、数値では表せない人間の感性が大きな影響を及ぼしている。それは実は、モノづくりが得意なはずの日本人にとって、苦手とする分野なのかもしれない。
ホンダが1979年に投入したNR500は、V型4気筒、楕円ピストンの32バルブで2万回転というエンジンで世界の度肝を抜き、1992年に投入したV型4気筒位相同爆エンジンはその後ドゥーハンの5連覇に貢献した。2002年にMotoGPになってからも、V型5気筒などユニークなエンジンで圧倒的なアドバンテージを築いた。10年ほど前に投入したシームレス・トランスミッションも他メーカーを驚かせたが、それ以降、ホンダがMotoGP界をリードした技術はない。
「勝てるマシン」がないホンダは、2022年にコンストラクターズ最下位という屈辱を味わった。今季も開幕前のテストを見る限り、厳しい状況と言わざるを得ない。復活に向け、ホンダはこれからどう戦っていくのか。今年も世界が注目している。
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