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どうしたホンダ? MotoGP開幕直前テストでも不振の理由と復活への道筋《昨年はコンストラクターズ最下位》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/03/17 11:00
テストのあいだ、こまめに仕様を変えては走行を繰り返したホンダのエース、マルケス。手術の回復具合も心配されるところだ
とにかく、なにもかもがうまくいってなさそう……というのが客観的にわかる。ホンダのエースでこれまで6回のタイトルを獲得してきたマルク・マルケスは、テスト期間を通じて「Repsol Honda Team」のカラーリングが施されたカウルで走ることはほとんどなかった。つまり最後の最後まで、いろんなテストに明け暮れていたということだ。
何をどうすれば、強いホンダが復活するのだろうか? 思いだすのはヤマハの歴史だ。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ミック・ドゥーハンがNSR500で5連覇を達成するなどホンダが圧倒的に強い時代があった。当然のようにサテライトチームは勝てるバイクを欲しがり、ホンダチームが増えた。いま、ドゥカティが4チームに増えたのは、それと同じ理由である。
1992年のウェイン・レイニー以来、長らくタイトル獲得から遠ざかっていたヤマハは、勝つためにMotoGPクラスに資金を集中させ、首脳陣を入れ替えることを決断。2003年にレースと関係ない部署にいた古沢政生氏をレース部門のトップに据え、資金をMotoGPに集中させるために250ccクラスやスーパーバイクなどMotoGP以外のカテゴリーの参戦を取りやめた。長年にわたって築き上げてきた「レースのヤマハ」というイメージは崩壊し、大きな批判を浴びた。
その代償はいまも大きいと思うが、一方でヤマハはホンダからバレンティーノ・ロッシを獲得。さらにホンダに完全に負けていたエンジンの改良に全力を注いだことで、2004年にタイトルを奪還。ロッシにホルヘ・ロレンソの活躍もあり、マルケスが2013年にMotoGPクラスに登場するまで6度のタイトルを獲得した。
タイトル獲得の3つの要素
ロッシがヤマハ1年目の2004年にチャンピオンを獲得したときのこと、古沢氏に「タイトルを獲得できた要因は?」と聞いたことがある。そのとき古沢氏はこう答えてくれた。
「私はレースを知らなかったので、責任者になってから半年、どうすれば勝てるかということを考えた。その結果、3つのことが必要だということが分かった。勝てる体制、勝てるマシン、勝てるライダー、この3つが揃わなければタイトルは獲れない」
どんなすごいことを言ってくれるのかと期待しただけに、確かに言っていることに間違いはないけど……と、僕は拍子抜けの気分を味わった。しかし、いまホンダが低迷しているのは、この3つが揃っていないからだと断言できる。