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「いいスクラムハーフって、性格悪いんですよ」サンゴリアスに受け継がれる“贅沢な9番争い” 田中監督が考える流大と齋藤直人の起用法
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNobuhiko Otomo
posted2023/03/10 17:00
流大(右)、齋藤直人と2人の日本代表SHを擁する東京サントリーサンゴリアス。贅沢すぎる起用法を田中監督に聞いた
「直人(齋藤)は去年はフィニッシャーで出ることが多かったけど、テンポを上げることしか知らなかったんです」
サンゴリアスではリザーブ選手を「フィニッシャー」と呼ぶ。試合を仕上げる役目というポジティブな意味だ。
多くの場合、交代で投入されるSHは「テンポを上げる」ことを求められる。疲労がたまっていく後半にボールを動かすテンポをあげれば、DF側が対応するのは難しくなるわけだが、レベルの高い戦いでは一般的ではない現象が生じる。
早いテンポで攻撃し続ければ相手も対応する。DF側もテンポ良く構えて、どんぴしゃのタイミングでタックルできたりする。だから、うまいSHは時々パスを出すのをわざと遅らせたりしてテンポを変え、相手DFの読みを幻惑するのだ。
自身もSHである田中監督はこんなジョークを口にする。
「いいSHって、だいたい性格悪いんですよ」
性格の良い悪いはともかく、流は、能力が高いからこそフィニッシャーを任されている、というのだ。
「直人は今、悔しいと思ってるはず」
となると、先発SHで主将を任されている齋藤はどういう立場なのだろう――その問いに、田中監督は「直人は今、いろんなことを経験して、いい勉強をしてると思いますよ」と言った。
「スタートで出るのはやっぱり難しいんですよ、前半は相手も元気だし、事前に分析していても、当日どんなことをしてくるかは分からないことが多い。準備した通りに全部できるわけじゃない。後半から出る場合は、相手の出方が分かった上で入るし、味方の調子もわかるから、ゲームを作りやすいんです」
とはいえ、傍目からは、途中から出た選手の活躍がより際だって見える。
「直人は今、絶対悔しいと思ってるはずですよ。自分が引っ込んで、流が入ってから試合がうまく進んでいるんですから。でも、今は難しさを味わっているけれど、それを乗り越えたらいい選手になる」
実は田中監督自身、そういう経験を積んできた。
“先輩”永友洋司と争った田中監督
田中監督は1997年度の明大で主将を務め、対抗戦グループでは全勝で優勝。大学選手権では3連覇を目前にしながら関東学院大に敗れた。サントリーに入ると、キャプテンが同じSHの永友洋司だった。
永友は明大の先輩で1992年度の主将だった。田中監督はルーキー時代、5歳年長の先輩からポジションを奪い取ろうと挑み、永友先輩も遠慮なく接した。
田中監督がサントリーの新人時代の夏の網走合宿で、記者は「ヨージ(永友)のヤツ、ゼッタイ許さねえ」という呟きを聞いた(もう20年以上前の話、時効と思うので書かせていただく)。実戦形式の練習の中で、頭部を蹴られたというのだ。怒る気持ちも分かるが、ラグビーでは、倒れている選手に足が当たることおはまああること。だがそこまで感情を昂ぶらせるほど、田中後輩は永友先輩に対して燃えて戦っていたのだ。