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《MotoGPテスト開始》そもそも何をテスト? 今と昔の違いは? 走りたがりのノリック&ニッキー、世界を股にかけた大治郎
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/02/18 17:00
今シーズンを占うテストで好調なドカティ勢において、昨年の王者バニャイアも順調にメニューをこなしていた
開幕前の公式テストは2つのサーキットで5日間行われる。今年はセパンが3日、開幕戦の舞台となるポルトガルのアルガルベで2日間となっている。アルガルベはコースのレイアウト上、マシンの開発テストにあまり向いていないから、今回のセパンテストは各メーカーにとってとても重要な位置づけだった。にもかかわらず周回数が少なかったのは、2日目に雨の影響を受けて周回を稼げなかったこともあるが、今回は3日間でスリックタイヤが6セットの制限があり、むやみに走るわけにもいかないという事情がある。
シーズンオフのテスト数が厳しく制限されるようになったのは2005年頃からだが、それより前の2ストロークエンジンを搭載した500cc時代、2002年から始まった4ストロークのMotoGPクラス黎明期はタイヤメーカーの戦いも激しく、年末はクリスマス直前まで、年明けは1月10日頃からテストが始まり、開幕戦まで20日前後のテストが行われていた。そうしたテストをほぼすべて取材していた僕は、選手やメカニック同様1年中休みがなかったし、1年のうち300日は海外で過ごす生活だった。
グランプリ史上屈指の「走りたがり」
その時代と現代の決定的な違いが1日の周回数である。いままで僕が見てきたライダーで最も多くの周回数をこなしたであろう“走りたがり”は、2006年にホンダでタイトルを獲得したニッキー・ヘイデンと、ノリックこと阿部典史だ。
この2人は午前中だけで100ラップを超えることも珍しくなく、今年のテストの合計周回数140周くらいなら、わずか1日でこなした。エンジン、車体のテストが一段落すると、地獄のタイヤテストが待ち受けていたからだ。タイヤメーカーによってテストのやり方は違っていたが、当時MotoGPクラスで最強を誇ったミシュランを使うライダーは、通常のマシンテストが終わった後、タイヤテストだけで40〜50ラップをこなしていた。テストはあくまでリクエストで強制ではないといえ、ライダーにとっては過酷な状況だった。
そんな時代だったから、ライダーは通常のテストで十分な体力トレーニングになったし、テストのないときはジムに行ったりランニングしたりする程度で、できるだけ自宅で休養に努めていた。