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「それだけ女心がわかるならモテモテじゃないですか」不破聖衣来を指導する拓大・五十嵐監督が実戦する”1対1”の駅伝マネジメントとは?
text by
藤井みさMisa Fujii
photograph byAsami Enomoto
posted2023/02/14 11:30
不破聖衣来という大きな才能と向き合う拓殖大女子陸上部の五十嵐利治監督(左)
「そのために指導者がどう選手の心をつかむか、どうやる気にさせて、自分自身で決めさせる状態へもっていけるかが、女子のチーム、特に大学生を強くするためには必要なんです」
「できるかな?」選手自身の気持ちを奮い立たせる
昨年の4月に新井沙希と古澤日菜向が入学してきた時に、五十嵐監督は「ケガさえなければ秋には5000m16分20秒を切るからな」と2人に伝えた。だが持ちタイムは、古澤が16分52秒、新井は17分台で入学し、3000mを走っても10分かかっていた2人は「さすがに無理なんじゃないか」という反応を示した。
「まずは、『どうしてこのタイムを出せるのか』をずっと説明していくんです。そうなるためにはこういう練習や取り組みが必要だよ、そのためにはこういう意識が必要だよねって。『これをやれ』じゃなくて、『こうしたほうが良いよね、これってできるかな』と問いかけていくと、『やってみます』となるんです」
それは五十嵐監督が佐倉アスリート倶楽部のコーチ時代、小出義雄さん(故人)から学んだことでもある。小出さんは選手の動きを見て、「いい動きになってきたな、本当にいいな。次の1kmはそしたら、これぐらいでいけるかな?」と選手に投げかけていた。
「そうすると気持ちが乗っていける。選手の気持ちを奮い立たせるような感じにしていくことを私もすごく大事にしています。丁寧に説明して、『私もできるかも』と思って行動してもらうとどんどん強くなってくるんですよね。だから言葉のかけ方や、持っていき方とかはすごく計算してやっています」
結果的に、12月には5000mで新井が16分12秒17を、古澤も16分13秒58をマークし、駅伝のメンバーにも入った。新井は富士山女子駅伝で7区区間2位、古澤は全日本大学女子駅伝2区で区間6位と好走した。
適切な声かけをし、モチベーションを持たせるために、一人ひとりの人間性をよく見て、性格を読んでいくのだという五十嵐監督。例えば練習をやりすぎてしまう選手、褒めて伸びる選手、突き放すことで奮起する選手、自らを律してやるべきことをやれる選手…それぞれの性格がわかっていれば、スカウティングなどで練習を見ることができない時間ができても適切なコミュニケーションができるという。
一人ひとりに合わせて絶妙な声かけをしてくれる五十嵐監督に、選手たちは「それだけ女心がわかるならモテモテじゃないですか」と冗談半分に声をかけてくるという。本人もまんざらでもなさそうだ。