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藤井聡太「王将戦の各局、非常に難しかった」、羽生善治「将棋は奥深いもの」と語るが…“2人の高み”を同世代・若手棋士はどう感じたか
posted2023/02/09 17:14
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
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日本将棋連盟
<名言1>
羽生さんの影響は大きいです。
(藤井猛/Number783号 2011年7月21日発売)
◇解説◇
世間では「将棋の藤井」と言えば真っ先に思いつくであろう人物は藤井聡太……なのだろうが、将棋ファンにとってはもう1人の偉大な「藤井」がいる。藤井猛九段だ。
彼の代名詞と言えば「藤井システム」である。
藤井猛は1991年、20歳で四段に昇段した。羽生と同じ1970年生まれで「羽生世代」の一員として知られる。同世代においては羽生がトップランナーで、それに続く森内俊之九段、佐藤康光九段、郷田真隆九段らから少し遅れての台頭だった。
サッカーならフォーメーション、野球で言えば打撃・投球フォームが個性的なチームや選手が活躍すると注目が集まるが……90年代後半から2000年代前半にかけての「藤井システム」は、まさにそのような状態だった。独特の振り飛車戦法でトップ棋士を攻略し始めたからだ。
そして1998年、竜王戦挑戦者決定戦で当時四冠の羽生を破ると、タイトル保持者である谷川浩司にも4連勝。棋界が誇る2人の天才を鮮やかに撃破し、そこから竜王戦3連覇を成し遂げた。
羽生さんが斬新な手を指して七冠を獲った姿を見てますから
盤面に配された「藤井システム」の美しさに魅了されたファンも数多い。しかし藤井猛は自身の才能について、こう自虐していたことがある。
「僕ね、直感がないんですよ。第一感というヤツがね。局面をひとめ見て、この一手、なんて浮かばない。閃かないんです。(中略)直感のある人が羨ましいです。手が見えるなんて、僕とは無縁の世界。局面を把握するだけで大変です。そもそも頭の構造が将棋に向いていないんですよ」
こう語りつつも、自身が将棋界で確固たる立ち位置を築くに至ったのは――同世代の羽生の才能をずっと目にしてきたからだ。
「本筋と外れることに抵抗はなかった。若い頃の羽生さんが斬新な手を指して七冠を獲った姿を見てますからね」
ちなみに「藤井システム」を藤井猛以外にただ1人、ほぼ完璧に指しこなせたのは、羽生だけだったという。この話には余談がある。2017年3月に行われた非公式戦「第零期 獅子王戦」決勝で、羽生善治と藤井聡太が対局することになった。この一局で羽生が用いたのが「藤井システム」。この戦型を用いた羽生が藤井に勝利したのは、当時ファンにとって話題となったのだった。