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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ごめんなさい…」ジュリアと鈴季すずは、テキーラ沙弥の胸に飛び込んだ…スターダム王座戦のバックステージに現れた“もう一人の主人公”の物語
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/02/11 11:05
2月4日のタイトルマッチ終了後、バックステージで再会したジュリアと鈴季すず、そしてテキーラ沙弥
ジュリア入団会見での「ノーコメント」の意味
10月16日、沙弥が立ち上げた若手主体興行「P's Party」がアイスリボンの道場兼常設会場で開催される。取材に行き、沙弥に会うと頭を下げられた。
「引退が延期になってしまいました。ご迷惑おかけします」
なんとも言えない気持ちになった。誰よりも悲しいのは彼女自身だ。沙弥さんが謝ることじゃないです、話題になっておいしいくらいの気持ちでいてください。そんな言葉を返した記憶がある。大会開始前には沙弥がリング上で挨拶。この日の「P's Party」のメインで勝利したのが、新人時代のすずだ。彼女は「自分がアイスリボンを引っ張ります」と泣きながら誓った。
その後、スターダムの記者会見の中でジュリア入団が正式に発表される。会見後に選手個別の囲み取材も可能だと聞き、筆者はジュリアの取材を申し込んだ。選手の移籍は一方的にどちらかが悪いということはない。ジュリアを責めるつもりはなかった。ただプロレスファンの多くが「いったい何が起きたんだ」と疑問に感じている“事件”だ。記者として聞くべきことは聞かなければいけなかった。
スターダム参戦についていくつか質問して(ジュリアに質問したのは筆者だけだった)、最後に「今、前の団体の仲間たちにはどんな気持ちでいますか」と聞いた。ジュリアは「ノーコメント」だと言った。当時の状況からすれば、それも当然だろう。仕方のないことだった。
ジュリアの移籍に、実は契約上の問題はなかったという。だからジュリアも「お騒がせしてしまった」ということ以外で謝るつもりはなかった。とはいえイメージは悪い。“裏切り者”という批判を浴びながら、というより批判があったからこそ、ジュリアは前だけを見た。後ろを向くことはできなかった。すべてを捨ててスターダムに移ってきた。もうここで成功するしかレスラーとして生きる道はないのだ。時には、見ていて怖くなるような激しい試合もあった。その結果として、ジュリアは2020年に白いベルトと女子プロレス大賞を手にした。
3人が歩んできた別々の道
2019年の大晦日、テキーラ沙弥は引退試合を終えた。2カ月あまり延びた現役生活の中で、ジュリアが出場予定だった他団体や海外での試合も代わりを務めている。だがジュリアが何も言わず去ったことで、ひどく心を痛めたという話も伝わってきた。ジュリアやスターダムについて彼女の前で話すことは、タブーのようにもなっていた。
引退試合は1人1分ずつの「38人がけ」。他団体も含めゆかりの深い選手が次々と登場し、最後の相手はすずが務めた。キャリアの総決算となる試合、その最後にすずと闘って自分には描けない“未来”を見せたかったのだと沙弥は言った。すずは沙弥の得意技であるグランマエストロ・デ・テキーラとテキーラ・ショットを受け継いだ。ジュリアとのタイトルマッチでも、この2つの技を使っている。