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「面白い。昔のラグビーみたいで」38戦負けなしの無敵軍団を惑わした必殺トリック…仕掛け人・沢木敬介監督が示したかったものとは?
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNobuhiko Otomo
posted2023/02/03 11:02
横浜イーグルスを率いて3シーズン目を迎える沢木敬介監督。2018年12月から黒星がない王者ワイルドナイツを寸前まで苦しめた
当時のルールではペナルティキックも通常のキックと同様、タッチに蹴り出したら次のラインアウトは相手ボールで再開された。タッチキックは陣地と引き替えにボール支配権を失うことを意味していた。だが93年、トライが5点に格上げされたのと同時に、PKを直接蹴り出した場合のラインアウト投入権が蹴った側に移るルール改正がなされ、96年にはラインアウトで捕球するジャンパーを持ち上げるリフティングが実質的に解禁されて再確保の確率が高まると、ギャンブルプレーは姿を消していった。
かつて観客の熱視線を浴びた「ゴール前PKのスペシャルムーブ」は過去の遺物、絶滅危惧種となっていたのだ。
だから、イーグルスのスペシャルムーブは多くの人の喝采を浴びた。当事者、南アフリカ代表SHとして世界各地でプレーしてきたデクラークは言った。
「あの場面であのムーブを選んだのは選手のチョイスだけど、考えたのはケースケ(沢木監督)だ。いろんな国でいろんなトリックムーブを見てきたしプレーしてきたけど、自分から地面にボールを置くのは初めて見たよ」
沢木監督のサントリー監督時代、チームディレクターとして支えた同期の田中澄憲(現サンゴリアス監督)も舌を巻いた。
「アレ、ケースケが考えたんですか? デクラーク(のアイデア)かと思った。面白いですよね。昔のラグビーみたいで」
口をつくんだ沢木監督の思い
冒頭の会見に戻る。「誰が?」の問いに「ご想像にお任せします」と煙に巻いた沢木監督だったが、「ワイルドナイツ戦に向けて準備したプレーだったんですか?」と聞かれると「もちろん」と即答した(この時点で考案者が誰かは事実上白状していたわけだ)が、狙いの細部に話が進むと「それ以上は、まあ……」と口をつぐんだ。
シーズンはまだ続く。プレーオフまで勝ち進めばワイルドナイツとの再戦もありえる。相手をどう分析し、どう動いたら相手はどう対応すると予測して、何を準備してムーブを考案したのか。オブストラクションの反則を取られないためにどんな工夫をしたのか、どんな練習を重ねたのか……ひとつのムーブが生まれるまでには多くのプロセスがあり、そこには、言い出したらキリのない「産みの苦しみ」があっただろうが……すべてを口にすることはできない。
だがそこには「どこまで言おうかな……」という逡巡も垣間見えた。それは、ラグビーをもっともっと面白くしたい、ラグビーはもっと面白いんだという沢木監督の思いだろう。元盟友である田中監督の言葉も、そこに共鳴したものだと感じた。工夫するからラグビーは面白いんだと。