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進取の将棋BACK NUMBER
藤井聡太五冠vs羽生善治九段、注目の初タイトル戦 “藤井将棋”の進化を中村太地七段に聞く「完璧なところから…」「流行を作る側に」
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/01/08 11:02
充実一途の藤井聡太五冠。王座タイトル経験のある中村太地七段の目には“藤井将棋”はどう映っている?
何と言いますか……現在の将棋の流行を“軽く追っている”のではなく、流行を把握したうえで、さらにそこから自分なりの進展を用意しておく。そしてそれを実際の公式戦で試すというプロセスを踏んでいる、と言いましょうか。公式戦で現れていない変化の“さらに先の先”までいっているような状態で、それに対して対局相手が苦慮している場面も、将棋ファンの皆さんは目にした場面も多かったのではないでしょうか。
「こういう手があったのか!」と驚かされることも
現代将棋に関しては非常に速いスピードで進化しており、その流行についていくだけでも大変な状況です。その“流行を作る側に回る”というのが最先端にいっている棋士になるわけですが、藤井王将もそちら側に回ったとも言えます。私自身も「こういう手があったのか!」と知るケースもありました。恐ろしいところまで研究していて、その深さには驚かされますね。
言うなれば、藤井王将が指す将棋が、新たな定跡になっているような感覚さえ覚えます。
22年12月の棋王戦トーナメントで、渡辺明棋王への挑戦権獲得を決めた後の会見では〈6月頃までは対局が少なくて、対局が増えた後半になって充実して指せました〉とのコメントを残されたそうですね。
タイトルを多く持った棋士は、逆に対局数自体が少なくなってしまう。公式戦でしか得られない感覚がある中で、対局数が少ないことで藤井五冠ご自身の中で実戦感覚に少々ズレを感じていたのか……それでも自らの調子を整えていくところこそ、藤井五冠の非凡さなのでしょう。
また現在はAIを使って、序盤についても以前よりかなり深いところまで研究できるようになりました。公式戦の対局が少ない時期に序盤研究を、色々な形で積み重ねてきたのかなとも感じます。
人間性の部分でも深みが出ているのかもしれない
タイトル戦などを戦い続けていくことで、人間性の部分でも深みが出ているのかもしれません。私は北海道で開催された王位戦第2局、現地に足を運びました。藤井五冠の過ごし方を見ていると、いい意味で淡々と取り組んでいるな、という印象でした。
将棋にしっかり集中しながらも、全国各地に赴くのが楽しみで、北海道も楽しみの1つだとインタビューでおっしゃったり、現地の食事も含めてという発言も(笑)。そういった意味で盤上盤外の両方で充実して一局一局に臨んでいるのかなと。