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羽生善治九段52歳の新境地「後手番の“ある戦法”」にタイトル経験棋士がシビれる理由「AI的には…ですが」〈藤井聡太王将に挑戦〉

posted2023/01/08 11:03

 
羽生善治九段52歳の新境地「後手番の“ある戦法”」にタイトル経験棋士がシビれる理由「AI的には…ですが」〈藤井聡太王将に挑戦〉<Number Web> photograph by NumberWeb

王将戦第1局前日記者会見より。羽生善治九段は通算タイトル100期に向けて、藤井聡太王将に挑戦者の立場で臨む

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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 将棋界が誇る2大スター、藤井聡太五冠(20)と羽生善治九段(52)。2人の初タイトル戦がついにスタートした。王将戦開幕のタイミングで、過去に王座タイトル獲得経験のある中村太地七段に、最近のそれぞれの戦いぶりなどについて聞いた(全2回/藤井将棋編も)

 王将戦、藤井聡太王将(竜王、王位、叡王、棋聖と5冠)に挑戦者として挑むのは、羽生善治九段です。将棋ファンだけでなく世間的にも「将棋と言えばこの2人」という知名度のあるスーパースター同士の対決ですから、非常に注目度は高まるのでは……と、将棋界に関わる1人の棋士としても、本当に楽しみにしています。

 カタールW杯でアルゼンチンのメッシ選手とフランスのエムバペ選手が決勝で対決し、歴史に残る名勝負を繰り広げましたね。私自身、あの試合を見ていて感動しましたが――藤井王将と羽生九段の対局は“親善試合”レベルでも盛り上がるのに、まさに決勝戦の舞台で戦うのですから、ぜひお見逃しなく! とお伝えしたいです(笑)。

 さて実力者が居並ぶ王将戦挑戦者決定リーグを、羽生九段は6戦全勝で勝ち上がりました。さらに2022年度は25勝13敗(昨年末時点)と、好成績を上げています。その要因について棋士としてどう感じているのか――私の所感ですが、お話しできればと。

 羽生九段の実績などを踏まえれば、今年度の成績はやはりこれだけのものが残るのだなと感じています。ただ2021年度は成績をかなり落とされた(※編集註:14勝24敗。勝率5割を割ったのは棋士となった1985年度以降初だった)ので、“復調”という表現がされているのでしょうが……戦い方の面でかなり試行錯誤されつつ、変化しているのが見ていて感じるところです。

「後手番における横歩取り」で勝利を積み重ねている

 その中で今期、注目が集まっているのは「後手番における横歩取り」を採用している点です。

 現在では指す人がかなり少なくなってきた、後手番でのこの戦法を羽生九段が用いるようになって、トップ棋士相手に次々と勝利を重ねてきました。王将挑戦への原動力になったと言っていいでしょう。

 将棋初心者、触れたことのない方に向けて「後手の横歩取り」について簡単に説明しますね。

 将棋は先手・後手に分かれて対局する中で、基本的には先手の方が自分のやりたい戦法ができて、積極的に攻めを繰り出すことができます。ただ「後手の横歩取り」については、序盤で「一歩損」をしてしまう。

 つまり先手に歩兵を1つあげてしまう代わりに、自分自身が積極的に攻めて動くことができるようになる。さらに対局相手を必ず横歩取りにできる、つまり自分の土俵で戦えるメリットが生まれます。ただ一歩損をしてしまうのは、結構な痛手ではあります。そのメリットとデメリットが、実際の対局でどう出るかというのが横歩取りの趣旨となります。

【次ページ】 AI的には“あまり評価されていない戦法”にもかかわらず

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