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サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
“伝説の決勝”のウラに審判の神ジャッジが!? 元国際主審・家本さんが斬るW杯決勝戦「シモンさんは“退ける”レフェリングができていた」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2022/12/27 17:01
W杯決勝というプレッシャーのかかるゲームを毅然とした態度で裁いたポーランド人シモン・マルチニアク主審。かつてJリーグでも笛を吹いたことがある
家本 たとえば後半42分に、マルクス・テュラムがペナルティーエリア内で倒れてシミュレーションと判断されて、イエローカードを提示されたシーンがあるじゃないですか。良いポジションを取っていたシモンさんは自信を持ってジャッジしたのが伝わってくるし、わざわざ選手たちが集まる中に入っていって詰め寄ってカードを出しているんです。これによってフランスの選手たちを寄せつけなかった。
気持ちをエスカレートさせる選手もいますから、普通は“まあまあ”みたいに受け流す感じでソフトにやることが多いんですけど、その逆をやった。こういうプレーは認めないとエモーショナルな部分でもうまく選手にメッセージを届けていましたね。
――試合全体を通しては、ソフトに対応するところとハードに対応するところの両面があったように感じました。
家本 強く出ていくときはそのようにしていく一方で、(レフェリーの存在が)消えたほうがいいときは消えています。ちゃんと(選手と)コミュニケーションを取りつつ、感情を出すツボを押さえていました。そのメリハリは本当に素晴らしかった。
一般的にレフェリーはソフトに対応していくことが基本。たとえば、3位決定戦のクロアチアvsモロッコ戦では、モロッコの選手がアブドゥルラフマン・アル・ジャシム主審(カタール)の判定に激しく抗議するような場面がありました。まさに“まあまあ”という対応でしたけど、こういったところでは“受ける”より“退ける”選択肢もあったかな、と。
シモンさんはここをうまくやりましたよね。今大会のアルゼンチンは初戦でサウジアラビアに負けて以降、荒々しくて激しいチームの姿を取り戻して勝利に徹するサッカーをやってくるわけです。フランスも荒々しさが垣間見えるチームと言っていいでしょう。そしてファイナルという舞台。ソフトな対応だけでは難しい。“退ける”も取り入れつつコントロールしたことで、両チームはフットボールに集中できたという印象を私は持ちました。
「FIFAの基準が主審の良さを消した」
――コントロールするのが難しいゲームとなったのが、準々決勝アルゼンチンvsオランダ戦です。イエローカードが18枚も飛び出して大荒れになりました。担当したのがラ・リーガで笛を吹いているスペイン人アントニオ・マテウ・ラオス主審。
気になったのが、後半44分のシーンでした。アルゼンチンのレアンドロ・パレデスがラフなスライディングタックルをしたのち相手ベンチにボールを強く蹴り込み、そのパレデスに対して今度はフィルジル・ファンダイクが体当たりしています。主審はパレデスにイエローのみを提示していましたが、ここの見解を教えてください。
家本 パレデスのタックルはイエロー相当で、ボールを蹴り込む行為は一発レッドであってもおかしくありません。ファンダイクはイエロー、レッドの両方考えられますが、私ならイエローか、と。ただ普段、スペインでのマテウさんなら多分パレデス、ファンダイクともにレッドを出したんじゃないかなと思うんです。
極力レッドカードを出さないというFIFAの方針があったのかもしれません。FIFAの基準に合わせようとしたことが、逆に彼の良さを消し、ジャッジを難しくした可能性もあるとは思いますよ。
あの試合はある意味、僕の知っているマテウさんでもあったけど、僕が知らないマテウさんでもありました。彼自身もやるせなさが残った試合なんじゃないかなと思います。