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「代表が勝つと、ランクルが爆走」専門家に聞いた“カタールってどんな国?”「人口のほとんどは外国人労働者」「中東で一番友達を作りにくい」
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Number編集部Sports Graphic Number
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2022/11/25 11:02
天然資源に恵まれた“中東の小国”カタールとは一体、どのような国なのか。研究者に話を聞いた
「代表が試合に勝つと、国旗を持った若者がトヨタのランドクルーザーに箱乗りして、中央分離帯や国道を爆走するという、分かりやすい光景が見られます。ちなみにランクルは無敵の走破性と、どんなときでもエアコンが効くという重要な要素を兼ね備えていることで、カタール人が愛してやまない車なんです」
サーニー家という大きな部族を中心とした国家
代表チームの勝利に熱狂する姿自体は、日本と通じるところがあるかもしれない。ただ、吉川教授は日本とカタールの最大の違いについてこう語る。
「一言でいうと、カタールは部族社会です。もともとサーニー家(現在の首長家。カタールの君主はこの王族による世襲で決まる)という大きな部族があって、その周りに他の部族たちも寄り合い、ひっそりと暮らしていたのが国のもと。普通、こうした部族社会は国家が近代化する過程で解体されるのですが、そうなる前に天然ガスの生産が軌道に乗ってリッチになってしまった。だから、昔ながらの大家族の仕組みを維持したまま現代に突入している、非常に珍しい国なんです」
そうした部族社会に、吉川教授のような“外の人間”が入っていくとどうなるのか。
「ある程度は仲良くなれますが、彼らのコミュニティの中でほとんどのことが完結しているので、深い関係にはなりにくいです。私もこれまで色々なアラブ諸国に行きましたが、一番友達の作りにくい国はどこだったかと聞かれれば、答えはカタールですね」
今回のワールドカップは“建国神話”として機能する大会に
そんな保守的な一面のある国が、ワールドカップを開催し、世界中の人々を呼び寄せようとしている。その狙いはどこにあるのか。
「今のカタールの礎を築いたのは、ハマド前首長(現首長の父親)です。彼はカタールの立ち位置をよく理解していて、こうしたイベントでもなければ、カタールの存在が世界に知られることはないと考えていました。しかも、国際大会を繰り返し開催すれば、サーニー家の名声は高まり、国民意識を高めることもできる。周辺のバーレーンやUAEも同様のことはやっていますが、カタールはそこに投入する予算と努力が群を抜いていますね」
そうした流れの「総仕上げ」として今回のワールドカップがあると吉川教授は見ている。
「言葉を選ばずに言うと、田舎の豪族があらゆる過程をすっ飛ばして、たかだか20年で世界のセレブになってしまった、というのが今のカタール。今回のワールドカップは、そうした国の建国神話としても機能する大会になるのではないかと思います」
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