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やめるとなったら、なぜ勝てる? ずば抜けた速さで今季最終戦に勝利したスズキが、ついにMotoGPから撤退する理由とは
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/11/10 17:00
最終戦バレンシアGPで優勝したリンス。ヘルメットにはチームスタッフそれぞれの表情がデザインされている
そして、こう続けた。
「今回は、ファビオとペコ(バニャイアの愛称)のタイトル決定戦ですね。23点差だから、ファビオはまずは優勝しなくちゃいけない。個人的にはファビオを応援しているし、チャンピオンになってもらいたい。でもね、我々も最後のレースで優勝を目指しているし、となればファビオの逆転は難しいことになるね。んんん……複雑な心境だなあ」
それがまさに現実となった。1960年にマン島TTに出場して以来、参戦を休止していた時代はあるが、スズキはラストランを見事、優勝で締めくくった。今回のスズキの撤退は一時休止というより完全撤退というニュアンスが強く、それだけにリンスの優勝は世界中のスズキファンを驚かせ、感動させることになった。
自動車メーカーとしての決断
ホンダのF1撤退もそうだが、やめるとなると、なぜこんな結果になるのだろう。やめるのをやめたら? という気持ちになってしまうが、世界的に見れば、バイクメーカーというより自動車メーカーとして認知されているスズキにとっては、脱炭素という世界の流れの中での苦渋の決断だったのだと思う。実際、グランプリに携わったスタッフには、これからEVバイクの開発に携わる人もいて、もしグランプリがEVバイクの戦いになったときには、再度の復帰もあるのではないかと思ったりした。
佐原氏に、秘密の塊のようなスズキのMotoGPマシンをすべて公開してはどうだろう? という提案をすると、こう答えてくれた。
「これから量産車に転用できる技術も多いので、さすがに全部見せるわけにはいかない。まあ、見せられるものは見せたいとは思っていますが……」
MotoGPクラスは、シーズンがスタートすればエンジン開発が禁止される。使用できるエンジンは開幕戦で届け出た仕様だけであり、それ以外は使えない。そのためファクトリーで作られたエンジンは封印され、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)の技術委員によって、定期的に違反がないかどうかの分解検査を受ける。つまり、現場でエンジンが開けられることはない。