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なぜトライアウトに警備・保険会社や医療法人が熱視線?「ある企業は元プロを採用して…」悲壮なドラマだけでない“再出発の第1歩” 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byHideki Sugiyama

posted2022/11/10 11:01

なぜトライアウトに警備・保険会社や医療法人が熱視線?「ある企業は元プロを採用して…」悲壮なドラマだけでない“再出発の第1歩”<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

トライアウトには日本ハム稲葉GMらの姿も見られた。ただし熱視線を送るのは野球関係者だけではない

「今年は、オープンでの勧誘行為はできなくなっています。だから、各社はトライアウトに出る選手を確認すると、つてをたどってNPBや各球団の担当者に問い合わせをしています。球団にとっても、セカンドキャリアの選択肢が増えるのは歓迎しているので、協力的です。例年通り保険会社や警備会社が多いですね」

 とのことだった。

「最近は、選手のプロフィールをより細かく分析する会社が増えていて、私にも『この選手は大学にスポーツ推薦で入ったのか、試験を受けて入ったのか』と聞いてきた会社がありました。当然ですが、試験を受けて入った選手は勉強もできるわけで、人材としては有望です。一浪して勉強で大学に入ったような選手は『粘り強さがある』として一般企業では、人材としての評価は上がります。

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 私の担当ではないですが、最近聞いた話で、ある医療法人は名門大学に実力で合格した野球選手を医大に入り直させる。そこから医師免許を取らせ、スポーツドクターにしようと考えています。“地頭”が良ければ、多少年齢が高くても、十分見込みがあると言うんですね」

「あの選手のチーム内の評判はどうだったのか?」

 また人柄についての問い合わせもあると言う。

「あの選手のチーム内の評判はどうだったのか? リーダーシップはあるのか? みたいな問い合わせですね。ある企業は元プロ選手を採用して素晴らしく優秀だったので当初は営業でしたが、社長室長に抜擢しています」

 元プロ野球選手のセカンドキャリアと言えば、野球の指導者、飲食店のオーナーと相場が決まっていたものだが、近年の人材難で様相は大きく変わりつつある。ユニフォームをスーツに着替えて颯爽と活躍している元選手は確実に増えている。

 11月8日の「12球団合同トライアウト」では、一塁側内野席が「選手家族席」になっていた。その席からは時折子供が叫ぶ声が聞こえていた。幼児を抱いたたくさんの「お母さん」が客席にいた。

 旦那は「小さい頃から一身に打ち込んできた野球も、今日でおしまいか」と悲壮な覚悟でグラウンドに出ている。家族も祈る思いで選手の姿を見ているが、全く違う視点から選手に熱視線を注いでいる人たちが、同じ球場にいるのだ。

「人間到る処青山有り」と言う。一見悲壮なドラマの舞台に見える、楽天生命パーク宮城の上に広がる青空は、選手たちの未来を暗示しているのかもしれない。

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