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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
ヤクルト戦力外ドラ1「僕の中では最後やと」名リリーフは妻子が見守る中…トライアウト現地で記者が聞いた“世に出てない話”
posted2022/11/10 11:00
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Hideki Sugiyama
JR仙台駅から「楽天生命パーク宮城」までは「宮城野通」という一本道が通っている。駅から歩けば30分近くかかるが、美しい行木路で、沿道にはイーグルスのクリムゾンレッドの小旗がはためいていて、愛称はイーグルロード(厳密には駅から600mの地点までだが)。筆者はこの道を歩くのが大好きだ。球場のゲートが見えてくると、わくわく感が高まる。
しかし11月8日の朝「12球団合同トライアウト」に参加する選手には、その楽しさを感じる余裕はなかっただろう。
そもそもプロ野球選手は、バスをスタジアムに横付けして球場入りする。用具はマネージャーが別途運び、ロッカールームに入れば洗濯され、綺麗に折りたたまれたユニフォームが置かれている。
しかしこの日、選手は自分でユニフォームや用具が入ったキャスター付きの大きなバッグを引いて受付に向かい、検温をして球場入りした。境遇の違いをひしひしと感じたことだろう。
有観客の中で、ユニフォームを着たファンの姿も
今年のトライアウトは3年ぶりに有観客で行われることになった。朝早くからファンが詰めかけていた。選手の名前が書かれたユニフォームを着たファンも多い。球場入りする選手に熱い視線を注いでいたが、中にはサインを求めるファンもいた。選手はそれどころではないのだから、それぞれが配慮してほしい――とも感じた。
9時になってメディアの受付が始まる。入り口で参加者リストを渡された。この時点までトライアウトのメンバーは発表されていない。参加選手数は49人、昨年は33人だったから大幅に増えた。顔ぶれを見ると、いろいろな感慨がわいてくる。インタビューしたことがある選手に、アマ時代から見ている選手。さらに一時期大いに注目された選手。
アップが終わってシートノックが始まる。すでにこれもテストの内だ。楽天コーチのノックを守備位置についた選手がさばいていく。切れの良いグラブさばき、送球を見せる選手もいるが、打球処理にもたつく選手もいる。試合から遠ざかり、勘が鈍っているのか。
そして「本番」であるシート打撃が始まった。49人のうち投手は26人、野手は23人。投手は3人の打者を相手に投げ、打者は交代で投手の相手をする仕組みで進む。
最初にマウンドに上がったのは広島の田中法彦。2020年に2試合だけ一軍で投げた右腕である。146km/hの速球を投げたが、2人目・巨人の勝俣翔貴を歩かせた。
大きな拍手が上がったのは、4人目の菊池保則だった。