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「1番、羽生結弦さん」“企画もプロデュースも出演も”羽生結弦…記者が驚いたプロ初のアイスショーの中身「まさか90分を1人で…」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/11/08 17:02
11月4日に開幕したアイスショー「プロローグ」で演技する羽生結弦
限られた準備期間の中で、光ったクオリティ
『SEIMEI』に続いたのはこれまでの数々のプログラムだ。ジュニア時のエキシビションで用いていた『CHANGE』は中村滉己氏の津軽三味線の生演奏とともに披露する。さらには2016-2017シーズンのショートプログラム『Let’s Go Crazy』。初めて国際大会に出場して優勝した2004-2005シーズンのショートプログラム『スパルタカス』。伝説的な試合でもある2012年世界選手権をはじめとする2011-2012シーズンのフリー『ロミオ+ジュリエット』。初めて披露された『いつか終わる夢』。北京五輪のエキシビションでも演じた『春よ、来い』。そして『パリの散歩道』。計8つのプログラムを演じた。
プロに転向することを表明した7月19日の記者会見ののち、会場をおさえる作業をはじめ、すべての企画がスタートしたという。時間は限られていた。それにもかかわらず、クオリティの高さが光った。
プログラムはコンセプトを描いて選んだと言う。
「演技の配置だったりとか、順番だったりも含めて、どこに何を入れるかを考えたとき、自分としては記者会見があって、ちょっと過去に戻って、平昌オリンピックがあって、それからあらためて今までの自分の人生を振り返って、最終的に北京のエキシビになり、今現在に至る、みたいなことをしたかったので」
90分を一人で…「容易なことではない」
意図は形として体現されていた。
演出のたしかさは、映像を交えた進行にも感じさせた。例えば『ロミオ+ジュリエット』は、2011-2012シーズンのグランプリファイナルの映像が流れ、やがて羽生が同じ衣装でリンクに現れ、映像から演技をつないだ。当時の羽生を思い起こさせつつ、27歳になった羽生が今も語り継がれるあのステップを滑ってみせたのだ。それは再現であり、2つのときを経て成長した姿を示していた。
ショーは時間にして約90分。出演は羽生のみ。合間にトークのコーナーがあり、プログラムとプログラムの間に数分の間隔もあった。それでも8つのプログラムを、90分の長丁場を一人で乗り越えたのだ。成し遂げるには、相応の体力が求められる。容易なことではない。その準備をこう明かす。
「頭からすべて通すっていうことを5回ほどやってきたんですけど。やっぱりふつうは1つのプログラムに全力を尽くしきってしまうので、その後にまた滑るということが考えられなかったんですけど、でも何とかここまで体力を続けることができたと自分では思っています」